合理的配慮とは?実施プロセスや具体例も解説

2023年3月14日

合理的配慮とは、障害の有無に関わらず、誰でも平等に人権を享受・行使できるように、適切なサポートを行うことです。
2016年4月に施行された「障害者差別解消法 (障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」により、行政・学校・企業などで、合理的配慮を提供することが求められています。

この記事では、合理的配慮の概要や種類、対象者、提供する流れ、心がけること、課題などについてご紹介します。

 

合理的配慮とは

合理的配慮とは、障害の有無を問わず、社会で生きづらさを感じさせないようにサポートする取り組みです。2021年に行われた通常国会で、障害者差別解消法が改正され、民間事業者でも合理的配慮が義務化されています。

ここでは、合理的配慮の概要や、合理的配慮という考え方が生まれた背景についてご紹介します。

合理的配慮の概要

合理的配慮とは、障害者が健常者と同様の生活を行うために必要な支援を行う取り組みのことです。2016年に施行された「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」という法律のもと取り組みが行われています。また2021年の法改正により、民間事業者においても努力義務から法的義務化されました。

法律制定の目的は「障害の有無に関わらず、互いが個性を認め合いながら共生する社会を目指すこと」です。
ここでいう「社会」とは行政や学校、企業などあらゆる場面を指します。

合理的配慮の歴史的背景

では、合理的配慮という考え方が広まるまでには、どのような流れがあったのでしょうか。合理的配慮を義務づけた「障害者差別解消法」が制定されるまでを振り返ってみましょう。

もともと合理的配慮という言葉は、1970年代ごろから存在していましたが、当時はあまり認知されていませんでした。大衆に知られるようになったのは、2006年に行われた国連総会で「障害者権利条約」が採択されたのがきっかけです。
条約内では、「合理的配慮を否定することは、障害を理由に差別しているのと同義」と記述され、合理的配慮の重要性が明確にされることとなりました。

また、条約が制定される過程で障害を持つ当事者たちが関わったことも大きな意義を持ち、「自分の生き方は自分で選ぶ」という主体性のもと意見を述べることが重要であり、障害のレベル・環境に沿った対応が求められるものとして、世界に浸透していきました。

なお、日本では条約が採択された翌年の2007年に署名を行い、条約の内容に基づいた法整備、制度改革を実施しています。

合理的配慮の種類

合理的配慮の対象となる方は、身体障害・知的障害・発達障害・精神障害といった、心身の機能障害を持つ方々です。こういった方々が、日常生活、社会生活に恒常的に困難が生じる状態を対象としています。
一方で、病気やけがで一時的に社会生活が困難な方に関しては対象外とされています。

主な支援内容には、身体障害者が移動に利用する交通機関でのサポートや、精神障害者への心のケアなどがありますが、障害の状態や程度に応じて実施内容は様々です。

ここでは、各状況に応じた合理的配慮の種類・形態を、より具体的に例示してご紹介します。

生活面

障害者が生活していくうえで、合理的配慮は必要不可欠なものです。
合理的配慮の求められる場面は多岐にわたりますが、ここでは障害者が利用する機会の多い交通機関・医療機関・福祉機関・教育現場にスポットを当ててご紹介します。
なお、ご紹介する合理的配慮はほんの一部です。

各自治体により方法は異なるものの、近年では合理的配慮への取り組みを強化していく動きが全国的に見られます。
自身の障害に悩んでいる人は、お住まいの市区町村でどんな合理的配慮が受けられるかを確認してみましょう。

交通機関

通院や通勤・通学時など、公共交通機関を利用する際にも合理的配慮は必要です。
以下では、各交通機関で提供されている合理的配慮について、種類別にご紹介します。

 

  • 鉄道

障害により券売機の利用が困難な場合、音声案内などで操作を援助したり、駅員が補助してくれたりします。
これらは、文字やボタンの配置を把握することが難しい視覚障害者や、ADHDやASDのような順番を待つことが困難な精神疾患の方に有効な配慮です。

また、車いす利用者には、乗り降りの際のサポートや改札までの順路確保を駅員が行います。駅構内や電車内には車いすの方専用の手すりがついたスペースも設置されています。

●バス

車いすの方や身体障害をお持ちの方に対しては、乗り降りの際にスロープを利用して負担の少ない乗車を可能にしています。
乗車したら通常の座席を折り畳み、車いす用のスペースを作ることができる車両もあります。
車いすの方を案内する前後には車内に「ただいま車いすの方をご案内中です。ご協力お願いします」とアナウンスが流れ、乗り降りする都度ほかの乗客に知らせます。

また、視覚障害者には音声案内で停留所名を知らせたり、聴覚障害者には停留所名称を案内板にわかりやすく表示したりと、身体障害者以外に対してもさまざまな配慮を実施しています。

●タクシー

車いすからタクシーへの乗り降りの際に、運転手が荷物をトランクへ収納する、聴覚障害者には筆談で対応するなどの配慮を行います。
以前は乗車拒否など対応に障壁がある場面も存在しましたが、現在は乗車拒否防止を徹底するマニュアルを作成し、配慮に努める企業もあります。

●飛行機

障害者でも空港を利用しやすいよう、福祉機器の適切な取り扱いや障害者の現状についての職員向け講習が実施されています。
また、搭乗に必要な安全確認については、職員が障害者に対してベルト着用等の補助を行う、申し出があれば安全装置の個別説明を行うなどの配慮がなされています。

 

また、障害者の申し出があれば、安全装置などの説明も個別に行います。

 

医療・福祉機関

定期的なリハビリや診察などで、障害者が頻繁に利用する施設が医療・福祉機関ではないでしょうか。ここでは、医療や福祉の現場で行われている合理的配慮についてご紹介します。

●受付

音声案内だけでなく、院内放送を電光掲示板の使用などで視覚化するなど、聴覚障害者向けの工夫が施されている施設もあります。

また、内部障害など見た目では判断しづらい障害者向けに、受付票に連絡カードを添付する、待ち時間が苦手な方に別室を設けるなどの配慮もなされています。

他にも、身体障害者向けに院内にスロープを用意したり、キャスター上げを補助したりしてくれる施設も一般的になりつつあります。

●診察、相談

自身の病状を伝えることや、言葉で理解することが難しい方には、絵や図を使用し説明していきます。診察中に不安になってしまう方には、医師や看護師が付添うこともあります。
特性に応じ、診察時間やルールなどを柔軟に対応できる体制づくりが重要です。

また、説明する際には正確に伝わるように「はっきり」「ていねいに」「ゆっくり」「繰り返し」を心がけるようにしましょう。

 

教育現場

児童にとって学校は毎日通う場所であり、生活の基盤です。
純真無垢な子どもは、時に素直な感想を口にして、障害児を傷つけてしまうこともあるでしょう。多感な幼少期の心の傷は、癒えるまでに時間がかかります。

そのため、教育の現場でも合理的配慮の支援体制を整えることが大切です。
ここでは、教育現場での主な合理的配慮の例をご紹介します。

●環境の整備

聴覚過敏の生徒の場合、少しの雑音や話し声が気になってしまい注意力が散漫になるため、机や椅子に緩衝材を付けて雑音を極力軽減させる環境作りを徹底しています。

また、視覚情報の処理が苦手な児童生徒には、教室内の掲示物をなるべく減らすことで情報量を減らし、一つのことに集中する時間を長く保てるよう工夫しています。

●教育

教育においては、クラスメートや教師とのコミュニケーションも重要な要素です。
言語的なコミュニケーションが苦手な生徒のために、絵や写真カード、タブレット端末などの使用を許可している教育機関もあります。

また、識字障害で教科書を読むことが難しいなど、障害により学習に障壁がある教科については、児童の特性に合わせた個別の対応を行っています。

●カウンセリング

学校生活では学習面のサポートだけでなく、心のケアも必要です。
困っていること、悩んでいることを聞き、解決策を本人と一緒に考えます。カウンセリングを効果的に進めるためには、教師と生徒の信頼関係も大切です。

以上のように様々な配慮が求められる教育現場ですが、最も重要なのは本人や周囲が「障害について理解できる」配慮ある教育をすることです。

障害がある生徒自身はもちろん、障害を持っていない生徒が障害について理解し、共に学んでいける方法を自発的に考えられる環境作りが教育現場では必要になってくるでしょう。

 

就労面

就労に関わる合理的配慮は、「障害者雇用促進法」によって定められています。
障害者を雇用する際には、本人の申出に合わせた内容の合理的配慮が必要です。
また、採用後についても、企業や担当者が障害に対する理解をもち、合理的配慮の必要性について本人と話し合いを重ね、把握することが大切です。

ここでは、就労面に関する合理的配慮の種類についてご紹介します。

採用

募集要項を、音声や点字で表示する、面接時の筆談・タブレット対応を可能にするなど、それぞれの障害特性に応じた対応を講じましょう。
また、就労支援機関の職員と同席することを許可している企業もあります。

なお、採用面接時は志望者自身の障害について「今後働いていくうえでどんな配慮が必要か」「どのようなことが得意で、何が苦手なのか」などの情報を聞き出す時間でもあります。
そのため、働きやすい環境を作れるように具体的な障害状況・希望をしっかり把握しておきましょう。

採用後

施設内に案内板や掲示板を設置する、手すり・スロープなどを設置し通路に障害物を置かないように周知するなど、社内の移動に支障がないよう環境を整えます。
車いすの方が作業しやすいよう作業スペースの高さを調節するなどの工夫や、感覚過敏を緩和させるサングラス・耳栓の使用許可などの配慮を実施している企業もあります。

また、業務の指示に関しては、質問・相談を受ける担当者を事前に決めておくと、コミュニケーションが取りやすいでしょう。
さらに、通院や体調不良の際の欠席も考慮した時間配分にする、ほかの従業員に必要な知識・配慮を周知するなども検討しましょう。

 

合理的配慮への理解が深い職場とは

前述したように、合理的配慮への取り組みは多岐にわたります。
しかしながら、身体障害者の方に対する合理的配慮の認知と比較すると、目に見えない障害である精神障害者への合理的配慮は一般企業ではなかなか認知が進まないという現状もあります。

そういった精神障害も含め、障害者が合理的配慮の下で安定した就労を目指す場合、一般企業ではなくサポート態勢の整った作業所を探すという選択肢もあります。
2013年4月に施行された「障害者総合支援法」では、以前施行された「障害者自立支援法」の内容が改正され、障害者や難病をもつ方に対して日常生活・社会生活を総合的に支援するために、さまざまな福祉サービスが利用可能となりました。
中でも就労にかかわるサービスとして、障害を持っている方を対象とした「福祉的就労」が挙げられます。

その福祉的就労のひとつであり、合理的配慮を受けて働くことができるのが「就労継続支援事業」という就労支援サービスです。

A型事業所とB型事業所について

就労継続支援事業は「就労継続支援A型事業所」と「就労継続支援B型事業所」の2つに分類されており、それぞれ雇用形態や賃金体系、利用できる年齢が異なります。
ここでは、A型事業所とB型事業所について詳しくご紹介します。

A型事業所

障害や難病のある方を対象に、雇用契約を結んだうえで、一定の支援がある職場で労働できる福祉的就労です。
18歳以上65歳未満の対象年齢があり、利用条件としては身体障害・知的障害・精神障害・発達障害や難病を持つ方のほか、「就労経験があるけど現在は働いてないこと」と「就労移行サービスなどで就職活動をしたが雇用に結びつかなかったこと」となっています。

仕事内容としては、カフェやレストランのホールスタッフやパソコンによるデータ入力、各種商品のパッキングなど多岐にわたります。
A型事業所での勤務内容は、一般就労とそこまで変わりません。異なるのは、拘束時間が短いこと、賃金が低いことです。勤務形態は各事業所により異なりますが、一日の実働時間は平均して4時間~8時間程度です。

また、基本的に利用期間の制限もありません。
ただし、利用者と事業者で結ばれた雇用契約が有期契約である場合は、更新の有無で実質的な利用期間も変わることがあります。

B型事業所

A型と違い年齢制限は設けておらず、利用者と事業所の間に雇用契約を結ばないため、非雇用型とも呼ばれます。一般的にA型事業所での就労が難しく、社会復帰の目的で訓練を行うために利用される方が多い傾向です。

サポートを受けながら事業所で経験を積んだ後、就労継続支援A型にステップアップしたり、就労移行支援を利用等により一般企業への就職を目指したりする仕組みです。
そのため、B型事業所は、A型事業所と比べると体調を考慮し自分のペースで働けます。

ただし、雇用契約を結ばないため報酬は賃金ではなく工賃として支払われることから、金額はA型と比べて低い傾向にあります。

作業所で行われる合理的配慮について

A型作業所やB型作業所が一般企業と大きく異なるのは、自分の障害や病気について理解しているスタッフがいることです。
そのため、合理的配慮の考え方も浸透しており、作業の内容が理解できない場合など、障害の特性により困難が生じた際には丁寧な指導を受けることができます。

また、自分の体調に合わせた業務内容・出勤日程の調整や、障害特性に対応した作業選択なども可能で、一般企業よりも柔軟な対応が期待できます。

 

合理的配慮の対象者

前述したように、合理的配慮の対象者は、社会生活に困難が伴う身体・知的・発達を含む精神障害と難病を持つ人と定義されています。ここでは、各障害について詳しくご紹介します。

身体障害者

「身体障害者福祉法」によると「身体上の障害がある18歳以上の人で、身体障害者手帳の交付を受けた人」と定義されています。
一般的には、四肢に不自由がある場合や、視覚や聴覚に制限がある人など身体機能に何らかの障害を持っている人が身体障害者という認識です。

身体障害には、身体障害者障害程度等級という等級があります。
身体障害者障害程度等級は、障害者の持っている障害の度合いによって1~7級に分類され、この等級により障害者が持っている障害が重度なのか軽度なのか一定の判断ができます。
最も重い障害が1級で、7級に近づくほど比較的軽度の障害となります。
言い換えれば1級に近い方が必要なサポートが多く、福祉機関の援助も手厚くなります。

精神障害者

精神障害は外見では判断が難しいため、健常者と区別がしづらい障害です。しかし、継続的な合理的配慮の必要性は身体障害者と同様です。
「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」では「統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質、その他の精神疾患を有するもの」と定義されています。
一方、「障害者基本法」では「精神障害があるため、日常・社会生活において継続的に制限を受ける人」と定義されており、厳密には定まっていません。

精神障害は、心因性・内因性・外因性など原因によって分類が異なります。
精神疾患が起こると、日常生活に支障をきたし幻聴や妄想、意欲低下といった症状が現れます。
これらの症状は、合併して発症するケースや時に強い症状を発症するケースもあるため、一人ひとりに合う適切な支援が必要です。

発達・知的障害者

原則的に18歳までの発達期の知的発達に遅れが生じて、社会生活に適応する能力に制限がある状態を言います。
知的能力の発達具合や適応能力の状態を考慮しながら、双方が一定の基準よりも低い場合、専門の医師によって知的障害者と診断されます。

知能の発達程度を示す数値である「知能指数(IQ)」が70以下だと知的障害に該当すると言われていますが、知的能力が低いだけでは断定はできません。
知的能力に加えて判断能力が発達期に遅れるという条件が重なったとき、初めて知的障害者と診断されます。

 

合理的配慮を提供する流れ

個々人に必要な合理的配慮の内容は、障害の特性や程度によって異なります。
就労において障害者が納得のいく合理的配慮を受けるには、周囲の協力や企業側のバックアップが必要不可欠です。
ここでは、双方が納得できる合理的配慮を実現するための手順をご説明します。

本人からの申し出

合理的配慮を行うには、障害者本人が自らの意思で周囲の人や企業に協力を仰がなければなりません。
そのためには、障害者本人から障害を持っていることを伝えてもらいましょう。
しかし、必要と考えられる合理的配慮を具体的に説明できない場合や、プライバシーを守りたい気持ちから正直に伝えられない場合もあるかもしれません。

そのため、企業側は採用面接時に合理的配慮について本人の希望を聞く時間を設けたり、本人が申し出をしやすい環境を作ったりする配慮が重要です。

障害者本人が合理的配慮の必要性を伝えなければ、企業側は配慮を行えません。
したがって企業側は、障害者に対して傾聴姿勢を持つことが必要になってきます。

当事者・雇用主の話し合い

合理的配慮が必要な旨を事業所側に伝えたら、次は本人が希望する合理的配慮について、当事者と企業側双方で話し合いを行いましょう。
具体的にどのような配慮が必要なのか、希望する合理的配慮は実現可能かどうかを細かく話し合っていきます。

長期に渡り合理的配慮を継続してもらうには、企業側に過度な負担とならないことが条件です。話し合いの段階で、負担が大きいものについては代替策を検討しましょう。

また、職場において合理的配慮を適切に実施するためには、ほかの従業員に理解を求める必要があります。プライバシー保護の観点からも、障害の内容をどこまで伝えて良いのか、意思のすり合わせが必要です。

なお、障害者が希望した配慮が提供可能になったら、企業側から説明をしなければなりません。
配慮内容が企業の過度な負担になり行えない場合は、その理由もしっかり説明しましょう。

配慮の実施

障害者と企業側で話し合いを重ねても、実際に施行してみて上手くいかなかったケースもあるでしょう。
合理的配慮をきちんと受けられない環境で働くことは、障害者本人にとって非常にストレスとなるばかりか、本来の能力を発揮できず企業側の不利益にもつながります。

そのため、話し合いの段階で取り決めたことを実施できるように事業所側は善処する必要があります。
合理的配慮が行き届いてない例として、直属の上司が変わった時に、障害に対する理解の引継ぎがうまく行かず、合理的配慮が十分にされない場合などが挙げられます。
引継ぎがきちんとされていないと、上司が変わる度に自身の障害について説明をしなければなりません。

そのような事態を防止するためにも、合理的配慮に関するアウトラインを作成・共有し、障害に対する理解の輪を現場で広げることが大切です。

また、障害者側から具体的に改善点を明確に伝えられる場合もあります。これは障害者本人しか分かり得ないことなので、提案されたら可能な限り取り入れる意識を持ちましょう。
合理的配慮の希望について、周囲に情報共有できる態勢が重要です。

また全般的に、質問・要望の窓口役としてサポートできる担当者がいたり、同じ部署の人が率先してフォローしたりする環境が整備されていると本人は心強いでしょう。

配慮の見直し

合理的配慮は実施して終わりではありません。
障害者の継続的サポートのため、合理的配慮の必要があることを周囲に理解してもらい、定着させることが最も重要です。

そのためには実施したプロセスを業務や障害の状況に応じて改めて見直し、改善していくことが大切になります。具体的には、合理的配慮を実施して感じた違和感・改善点などを挙げてもらうことが必要です。
とはいえ、合理的配慮は双方の合意で実施されているため、障害者が希望する改善点をすべて容認できるとは限りません。

配慮ができない範囲がある場合は、企業側から説明が必要です。
企業が配慮を行えない理由には、マンパワー不足・事業所のスペース不足・金銭的な理由などさまざまな事情があります。
いずれにせよ、障害を持った方と企業側の双方が納得のいくよう、配慮の見直しをすることは欠かせません。企業側から定期的に話し合いの場を設けると良いでしょう。

 

障害者と接する際に心掛けたい3つのこと

障害者の中でも精神障害者は、健常者との見分けがつきにくいという特徴があります。そのため、接し方によってはパニックなどに陥るリスクもあるので正しい接し方について理解しておきましょう。
ここでは、精神障害をもつ方と接する際に気を付けるべきポイントをご紹介します。

傾聴姿勢を意識する

精神障害の一部には、幻聴・幻覚の症状が出る場合があります。
これら症状が発症している障害者は、幻聴や幻覚をを実際に見えているもの・聞こえているものだと認識しています。

そのため、上記の症状が表出してきた際には、周囲の人は決して否定をせずに、傾聴する姿勢を持ちましょう。
話を聞いてもらえるだけでも、本人は心が落ち着く場合があります。

ここで否定してしまうと症状に拍車がかかる恐れがあるだけでなく、本人が「信じてもらえない」と感じることで、築いてきた信頼関係にひびが入る可能性もあるため注意しましょう。

変化に気付く心構えを持つ

障害者の心境・体調面の変化に気付けるアンテナを張っておくことが大切です。

特に精神障害者は、些細なきっかけで心身ともに変調をきたす場合があります。
それは季節の変わり目による天候の変化であったり、なにげない会話の中での一言が気になったりとさまざまです。そのため精神障害者と接する場合は、小さな「変化」に気付くことが重要です。

特に被害妄想・幻覚といった症状が表出してきている場合には、当人が症状を発症していることを自覚できていないケースもあります。
そういった状況では、早期に周囲が本人の変化に気が付き、面談や休養・勤務時間の変更といった対処をすることが当事者へのサポートになります。

不穏時の対応を徹底する

精神症状が目立つようになると、不穏な心理状態になる場合もあるでしょう。
不穏状態が見られた時の対応方法を速やかに実施できるように、周囲が障害について理解しておくことが重要です。

不穏時の対応方法としては、主治医に処方されている頓服薬の服用を促す、本人がリラックスできる環境を作るなどが有効です。

また、あらかじめかかりつけの精神科を申告しておいてもらい、そちらに連絡して診察を依頼するなど、緊急時の対応方法を事前に設定しておくと双方にとって安心でしょう。

 

合理的配慮の課題

障害者が社会生活を送るうえで欠かすことのできない合理的配慮ですが、その実施にはまだまだ課題が山積みなのが現状です。
ここでは、なぜ合理的配慮を実施することが難しいのか、具体的にどのような障壁があるのかをご紹介します。

人によって必要な配慮が違う

合理的配慮を実施することが難しい理由は、個々人の障害によって必要な配慮が異なるからです。障害には身体障害や精神障害など多くの種類があります。
一人ひとり必要とする合理的配慮が違うため、合理的配慮が適切に行えないケースもあります。

画一的な配慮ではなく、障害者それぞれにどのような配慮が必要なのか、きちんと聞き取った上で理解することが大切です。

障害者への偏見が根強い

障害者への社会的な受容や理解がひと昔前と比べて進む一方で、残念ながらまだまだ偏見の目は根強くあります。
先天的・後天的を問わず、障害を持っているだけで差別することはもちろん人権の尊重に反しますが、すでに浸透している偏見をすぐに根絶することは難しいのが現状です。

しかし、徐々に偏見のない社会へ変わっていけるよう、障害者の社会参加を目指し、理解促進に努めることが重要なのです。
そういった意味でも、合理的配慮のさらなる一般化が必要と言えるでしょう。

支援制度が充実していない

障害者支援の考え方や制度は国によって異なり、例えば福祉先進国と呼ばれる北欧諸国のうち、デンマークでは「ノーマライゼーション」の考え方の下、数々の施策を行っています。そうした国々と比べれば、日本の障害者支援制度は遅れているとも言われています。

実際問題として日本の支援制度は複雑で分かりにくく、本人や周囲の理解ある人が動かないと支援の手が届きづらいのも事実です。
本人がどのような支援を必要としているのか、周囲の人が共に考える意識を持つことで、制度拡充や改善の動きを徐々にではありますが加速させることができるでしょう。

 

まとめ

この記事では、障害者に対する合理的配慮についてご紹介しました。
合理的配慮は障害者が自立した社会生活を送る上で必要不可欠なものであり、健常者も障害者も分け隔てなく活躍するための支援です。それぞれの障害によって合理的配慮の方法も違います。

大切なのは個々人の障害への寄り添いと、その状態に合った合理的配慮の実施です。
適切な合理的配慮により世の中の障害への偏見を少しでも減らすことが、より働きやすく、暮らしやすい社会の実現へつながっていくでしょう。