統合失調症の方がいきいきと働ける仕事とは?障害の症状に応じた環境選びが大切

2023年1月11日

統合失調症は、脳内の情報を統合する機能がうまく働かなくなり、幻覚や幻聴、妄想、意欲の低下、認知機能の低下などの症状が現れる精神障害です。一度発病したら社会には戻れない不治の病と言われていましたが、適切な治療を受け社会復帰を果たす方も多くいます。ただし、社会復帰してからも長期的に仕事を続けるためには、自分の状態に合った職場環境を選ぶことが大切です。今回は統合失調症の方が安定的に仕事をするための方法や、環境を変えた方が良い場合とその際に取ることのできる選択肢についてご紹介します。

統合失調症の代表的な症状

統合失調症の原因ははっきりとは分かっていませんが、遺伝的要因やストレスなどの社会的要因が関係していると言われています。統合失調症の症状は、大きく陽性症状・陰性症状・認知機能障害の3つに分類されています。

陽性症状

統合失調症に特徴的で、統合失調症を発症したばかりの急性期に出やすい症状です。例えば以下のような症状が見られます。

・幻覚

実際にはないものがあるように感じられる症状です。特に誰もいないのに誰かの声が聞こえてくる幻聴が多いです。悪口や本人の噂、本人を非難・叱責するような内容の声が多いですが、他にも「食べ物に毒を入れられた」という被害妄想と絡んだ幻味や幻臭、実際にはない体の症状を感じる体感幻覚があります。治療を受ける前は、これが病気によるものだと気付けないことが多いです。

・妄想

実際には起きていないことを起きていると確信する症状です。自分が誰かから攻撃されている、嫌がらせを受けていると確信する被害妄想が特に多く、その中には「警察に追われている」というような追跡妄想、「盗聴器が仕掛けられている」というような注察妄想、「あの出来事は自分への攻撃だ」というような関係妄想などが含まれます。その他に「自分は神の生まれ変わりだ」「有名人が自分を愛している」というような誇大妄想、「財産を失ってしまった」「健康を害してしまった」というような微小妄想が見られる場合もあります。被害妄想の症状によって、日常的なコミュニケーションの中で相手に対し不必要に攻撃的になることがあります。

・自我障害

自分と自分の外との境界が曖昧になるために、自分が誰かに操られていると感じる作為体験、自分の考えが世の中の人に知られていると感じる考想伝播、自分の考えが声になって聞こえてくると感じる考想化声といった症状が現れます。

陰性症状

陽性症状が治まった後は、エネルギーを消耗しきったかのような状態になります。何もせずだらだらと過ごしたり、引きこもったりすることも多くなり、周囲から「社会性がない」「怠け者」と誤解されることもあります。例えば以下のような症状が見られます。

・感情鈍麻

感情の起伏が小さくなり、物事に対する喜怒哀楽の感情が湧きにくくなります。表情の動きや、話す時の手や体を使った感情表現が小さくなり、話す時に相手の表情を読み取ることも難しくなります。他人とのコミュニケーションに困難を感じることから、人と接したがらなくなることがあります。

・意欲の低下

これまで取り組んでいた学業や仕事への自主性がなくなり、何かの目的をもって行動を始めたり、一度始めた行動を続けたりすることが難しくなります。身だしなみに気を使わなくなることもあります。

認知機能障害

物事を判断・計画・集中・記憶する認知機能が低下します。陽性症状・陰性症状はうつ病などの他の精神障害によって引き起こされることもあること、現代は統合失調症を発病しても強い症状が現れない場合もあることから、認知機能障害の有無によって統合失調症の診断を行う医師もいます。認知機能障害は、薬物で抑えることが難しく、統合失調症の方の生活に長期的な影響を及ぼしやすい症状でもあり、近年注目されるようになっています。例えば以下のような症状が見られます。

・情報や刺激を取捨選択して必要なものだけに注意を払うことができないために、目の前のことに集中したり考えをまとめたりすることができなくなる

・過去の記憶や経験と比較して物事を判断することができないために、常識的な判断を誤ることがある

・情報を類似点と相違点によって区別し物事を概念化できないために、整理整頓ができなかったり、作業を手順よく進められなかったりする

認知機能障害によってコミュニケーションに困難が生じ、それが引きこもりの原因になることもあります。

統合失調症の方が安定的に仕事をするためにできること

統合失調症の方は、主治医の判断を仰いだ上で働くことができます。むしろ社会に出て様々な人と接することは、認知機能を回復するための重要な機会でもあります。しかし、疲れやすさや集中力の低下といった症状は長く続きやすく、統合失調症は再発しやすい病気でもあることから、病気と長期的に付き合っていくことが大切です。症状の激しいうちは十分に休養を取ること、主治医の指示に従って服薬を続けることは基本になりますが、体調が安定してきたら、無理のない範囲で少しずつ働けるようになることを目指したいですね。以下では、統合失調症の方が長く働くために工夫できることの例をご紹介します。

生活リズムを整える

統合失調症を発病すると、認知機能障害などの症状により、日常生活の技能が落ちることも多いです。そこで、決まった時間に睡眠や食事を取り、身支度や整理整頓を生活の中に上手く組み込めるようになることが、社会復帰を果たすための第一歩になります。

加えて、生活リズムを整えることは体調の管理・維持のためにも重要です。統合失調症の方は、認知機能障害の影響に加え、意欲の低下や、長期にわたる療養生活からくる体力の低下により、発症前と比べて疲れやすくなっています。睡眠や食事などの生活リズムを整えることで、ある程度の精神的な安定を作り、ストレス耐性を高めることができます。特に十分な睡眠を取ることは、ストレスの緩和に効果的です。適度な運動を取り入れることも、生活リズムを整えるのに役立ちます。

体調の変化をモニタリングし、上司や医師に共有できる環境を作る

統合失調症の方が、休養を取った後に再度働き始める場合、環境の変化が精神的な負荷になりやすいです。また、生活リズムに気を配ったとしても、仕事をする中でストレスになる要素は多くあります。再発を防ぎ、安定して働けるようになるために、自分の体調の変化をモニタリングしましょう。

特に、統合失調症の再発の前兆を知っておき、早い段階で医師や周囲の人に相談できるよう、自分の体調の変化に敏感になっておくことが重要です。

以下のような体調の変化が見られる場合は注意が必要です。

・眠れないことが多い

・焦りや不安を感じる

・そわそわと落ち着きがない

・食欲が落ちている

・急に活発になり、周囲の人の言うことを聞かなくなる

また、困った、不安だと感じた時にすぐに相談できる人を決めておくと、体調の変化に対して早いうちに対処することができます。

困りごとを相談できる相手として、家族の他、医師や看護師、ソーシャルワーカーといった病院のスタッフ、上司や同僚といった職場の方がいるのが望ましいです。

職場内や病院に、仕事や体調について定期的に相談できる環境を作る

統合失調症の方が、病気の再発を防ぎ、安定して働くためには、自分だけでなく周囲の方にも体調に注意してもらえると、より安心できます。職場の方に、仕事の様子や体調の変化を定期的に伝えることで、体調が急激に悪くなる前に、勤務時間や業務量の調整などの配慮をしてもらえることがあります。また、臨床心理士などの専門家のカウンセリングを定期的に受けることで、自分では分からないストレス要因や小さな体調の変化に気付いてもらえます。

統合失調症の方が仕事を続けることが難しいケース

統合失調症の方が、安定して働けるよう工夫をしたとしても、仕事を続けることが辛いと感じることがあります。特に次のような場合は、無理してでも同じ仕事を続けず、仕事を休む、仕事を変えるといった対処も検討するのが良いでしょう。

体調が不安定になった、再発の恐れがある

統合失調症は、再発を繰り返すことで脳がダメージを受けやすくなり、回復も難しくなってくると言われています。社会に出て他人と接することがリハビリになるとはいえ、体調の不安定な状態で仕事を続けてしまっては、病気の再発と悪化に繋がりかねません。自分自身や周囲の人が体調の大きな変化に気付いた場合は、無理に仕事を続けずに、回復に専念することも考えると良いでしょう。

周囲の助けを得られない

これまで述べてきたように、統合失調症の方が長期的に働くためには、自己管理を意識することと周囲の助けを得ることが大切です。しかし、職場環境や就職の状況によっては、周囲の助けを得ることが困難な場合があります。

具体的には次のようなケースが考えられます。

・就職時に障害を伝えていたにも関わらず、職場の方に障害への理解がないというケース。この場合、仕事や自分の体調についての不安や困りごとを伝えたとしても、適切な配慮をしてもらえないことが多くなります。疲れやすさや意欲の低下といった症状が出た場合も、「やる気がない、怠けている」と不当な評価を下されることもあります。

・就職時に障害を隠していたというケース。この場合、不安や困りごとを相談できる相手を見つけにくく、誰かに相談できないまま体調を崩し、仕事を続けられなくなってしまう可能性があります。

統合失調症の方が同じ仕事を辛いと感じた場合の選択肢

仕事を続けることが辛いと感じた場合、統合失調症の方が取ることのできる選択肢は複数あります。現在の仕事内容や職場環境、体調、仕事に対する希望を踏まえ、自分に合ったものを選びましょう。

休職

仕事内容や職場環境に大きな問題はないものの、体調が安定しない、再発の恐れがある、という場合は、ただちに退職をせず、まずは休職の形を取り、一時的に回復に専念するのが良いでしょう。障害に理解があり適切な配慮をしてもらえる職場環境であれば、十分な休養を取り、適切な治療を受けた後、再び意欲をもって仕事に取り組むことができると考えられます。

就労に関するサポートを受けられる施設の利用

周囲の人に障害への理解がない、障害のことを上手く伝えられない、といった場合は、一度、現在の職場環境から離れることを検討してみてもいいかもしれません。障害の特性に応じた求人紹介や求職活動の支援を受けることで、今よりも無理なく働ける職場環境を見つけられる可能性が高くなります。あるいは、すぐに転職をせず、コミュニケーション力や業務遂行能力の向上も兼ね、職業訓練を受けながら就労の方向性を考える、というのも良いでしょう。障害のある方が就労に関するサポートを受けられる施設は複数ありますので、自分に合ったものを選びましょう。

・公共職業安定所(ハローワーク)

職業紹介や雇用保険手続きなどを行うことのできる国営の施設です。障害者の方は、求職登録をすると、職業相談・職業紹介・職場適応指導などをケースワーク方式で受けることができます。求人情報検索はインターネットでも行うことができますが、全国に500以上の拠点がありますので、行きやすい拠点があれば一度足を運んでみると良いでしょう。

・地域障害者職業センター

社会生活技能等の向上や、職業に関する知識の習得、就職・職場適応のための課題把握・改善のために必要な支援を受けることができます。障害者手帳の有無に関わらず、障害のある方が無料で支援を受けることができます。事業所への職場適応援助者(ジョブコーチ)の派遣、職場復帰支援といった、障害者と事業主双方に対する支援も行っています。各都道府県に1~2ヶ所設置されています。

・障害者就業・生活支援センター

職業訓練から求職活動、定着支援など、就労からその後の日常生活の支援を継続的に受けることができます。就労移行支援事業所や保健所・医療機関、グループホームなど関連機関との連携も行っています。障害者手帳の有無に関わらず、障害のある方が無料で支援を受けることができます。保健所内に設置されており、全国に約300の施設があります。

・障害者職業能力開発校

就職に必要な基礎能力の訓練や、職種に応じた専門的な職業訓練を受けることができます。障害者手帳を持ち、心身の状態が安定している方であれば、授業料無料で学ぶことができます。都道府県が運営しており、全国各地に設置されています。

・就労移行支援事業所

地方自治体から指定を受けた民営の施設で、学校のように通いながら、個別支援計画に基づき、職業訓練や就職活動の支援を受けられます。障害者手帳を持っていない場合も、医師などの判断により利用できることがあります。前年度の世帯の収入状況によって利用料が決まり、無料で利用できる場合もあります。

・就労継続支援事業所

地方自治体から指定を受けた民営の施設で、賃金を得ながら働くことができます。雇用契約を結び、まとまった収入を得ながら働くことのできるA型と、雇用契約を結ばず、自分のペースで働くことのできるB型があります。働きながら、一般企業への就職を目指して職業訓練の支援を受けることもできます。就労移行支援事業所と同様、障害者手帳の所持は必須ではなく、利用料も場合によっては無料になります。

障害者雇用枠で一般企業へ転職

一般企業への就職を希望する場合は、障害者雇用枠での転職も検討しましょう。障害者雇用枠で働く場合、障害を持っていることが前提で雇用されるため、障害の特性や配慮して欲しいことを職場の方に伝えやすく、体調に合わせた時短勤務や休暇取得にも応じてもらえる可能性が高くなります。ある程度、体調が安定している方であれば、一般雇用枠から直接、障害者雇用枠に応募してみるのもいいでしょう。また、就労支援を受けた上で準備をしてから障害者雇用枠での就職にチャレンジする人も多くいらっしゃいます。統合失調症の方には、残業がなく勤務時間が決まっている仕事、作業内容や手順の決まっている仕事、対人業務や数字的・時間的プレッシャーの少ない仕事が向いていると言われますが、障害者枠の求人ではそのような仕事も選びやすくなります。

統合失調症の方が転職を考える場合は転職エージェントへの登録がおすすめ

統合失調症の方が障害者枠での転職を考える場合は、転職エージェントに登録し障害者枠専門のキャリアアドバイザーに相談しながら転職活動を進めるのがおすすめです。

一人一人の統合失調症の障害特性に合わせた求人の紹介が受けられる

統合失調症を発病すると、物事の計画・判断・記憶の力を総合的に使わなければならない複雑な仕事をこなすことや、新しい仕事に慣れることを難しいと感じることが多くなり、発病前とのギャップに戸惑う局面もあるかと思います。専門のキャリアアドバイザーに、これまでの職業経験や能力、希望、障害の状況を伝えることで、長く続けやすい求人の紹介を受けることができます。

入職後も定着に向けてサポートが受けられる

障害者枠で転職をした後も、面談による仕事の状況や課題のヒアリング、面談内容に基づく雇用者への改善提案などのサポートを受けることができます。統合失調症の方は、新たな職場での体調管理や業務量・業務内容の調整に不安を覚えることも多いかと思います。そのような場合は是非、転職エージェントへの登録も検討してみてください。

まとめ

統合失調症は、症状の重さによっては日常生活や就労を妨げることもある精神障害ですが、統合失調症を持っているからといって、ただちに仕事を諦める必要はありません。仕事をする中で、自発的に考えて動き、誰かの役に立ち周囲から認められる喜びを得ることができれば、心身の状態を整え統合失調症の再発を抑えることにも繋がるでしょう。支援機関や専門家と相談しつつ、納得して働ける仕事を探してみましょう。