障害者が安定して働くためには?持続可能な働き方のポイント解説

2023年1月11日

障害を抱えながらも自分らしく働くためにはどうすれば良いでしょうか。本稿では障害者の方が就職や転職をして働く際に役立つ情報をまとめました。障害を持っていても自分らしく働ける環境を見つけるための助けになれば幸いです。

働く障害者の現状について

まずは働く障害者の現状を確認してみましょう。障害者の雇用状況はどのように変化してきたのでしょうか。

働く障害者の数は年々増加傾向

企業に就職する障害者の数はこの10年で右肩上がりに増加しています。厚生労働省が2020年に発表した調査結果ではハローワークを通じた障害者の就職件数は11年連続で増加しており、令和元年の就職件数は約10.3万件でした。この就職件数は10年前と比べて2倍以上に増加しており、中でも精神障害者は約5倍に増加しています。

このように障害者の雇用が拡大する背景には、まず障害者雇用促進法における法定雇用率の上昇が挙げられます。法定雇用率とは障害のある方の雇用の割合が一定の率以上になるよう義務付けている決まりで、その値は年々上昇傾向にあります。2021年3月には2.3%(民間企業)になり、現在、労働者43.5人に1人以上の割合で障害者の雇用が求められています。ほかにも障害者雇用の認知の拡大、ダイバーシティ(多様性)やCSR(Corporate Social Responsibilityの略。「企業の社会的責任」のこと。)の取り組みの推進、特例子会社の増加などが進んでおり、働きたい障害者にとっては追い風が吹いているといえます。

職場定着率には課題あり

しかし就職後の障害者に目を向けると課題があります。それは職場定着率が決して高いと言えないためです。常用労働者全体(障害者を含む)の1年間の平均離職率は14~17%程度で推移しています。それと比較して身体障害者と知的障害者の離職率は約40%、精神障害者は約50%と離職者が目立つ現状があります。企業にとっても、そして働く障害者にとっても継続して長く職場で働くことは大きな課題なのです。

まずは働く目的を明確にしよう

課題はありますが、働きたい障害者にとっては前向きな状況が形成されているのが分かりました。それではこれから就職や転職を考える障害者の方は、まず何をすべきでしょうか。理想的な就職を実現させるためには、まず働く目的を明確にしましょう。目的がはっきりすれば目指すべき就職先も見えてきます。ここでは働く目的の代表例を紹介します。

収入を得るため

多くの人が真っ先に挙げる目的はやはり収入ではないでしょうか。安定した収入は心の安定にもつながりますし、生活を豊かにしてくれます。中には障害年金を受給されている方もいるはずですが、より良い暮らしを実現させるためにはやはり働いて収入を得ることは欠かせません。ただし、一般的に高収入の職種ほど、高度なスキルが必要でストレス負荷も高い傾向にあります。収入の高さばかりを重要視するのではなく、障害とのバランスや自身の健康を優先することが大切です。生活に必要な最低限の収入のラインをまずは計算してみると収入に心が左右されづらくなります。

豊かな人間関係の構築のため

働くことは社会とつながることでもあります。会社に所属して働けば、同僚や上司など、新たな人間関係が生まれます。営業職であれば個性豊かな取引先の方とも出会えるでしょう。こうした新たな人とのつながりを働く目的とされる方も多いです。障害によりますが、症状によっては人との交流が絶たれていた方も少なくありません。働いて人とつながることで新たな刺激がもらえますし、人生に新たな発見や気付きも得られます。中には結婚などの転機に恵まれる場合もあるでしょう。働くことを通じて構築した人間関係は大きな財産となります。

能力や人間性を高めるため

自分自身のさらなる成長を、働く目的と考えている方もいるのではないでしょうか。仕事を通じて得られる学びは多くあります。仕事に慣れるまでは勉強ばかりでプレッシャーもありますが、そうした苦労を乗り越えた先には能力や人間性の成長があります。専門性の高い仕事であれば、大きなスキルアップを望むことも可能です。責任が重い仕事であれば、内面がより磨かれるでしょう。仕事を通じて自己研鑽に励むことは、なりたい自分になるための近道ともいえます。

社会貢献のため

働いてお給料を貰うことは社会経済の一端を担っています。どのような職種であっても、世の中のために貢献しているやりがいを感じられるはずです。そんな社会貢献を働く目的に考える方もめずらしくありません。接客業でも製造業でも人々の笑顔を創出しています。自分の生産性をより良い社会の実現のために使えることは嬉しいですよね。障害を抱えているからこそ実現したい社会もあるはずです。そうした思い描く社会の実現にも働くことで少しずつ貢献できるのではないでしょうか。

障害者の多様な働き方を知ろう

障害者として働く道は数多くあります。民間企業へ就職する以外にも、さまざまな選択肢が広がっています。多様な働き方を知って、いきいきと働ける道を見つけましょう

クローズ就労(一般就労)

障害があることを企業側に伝えずに一般の雇用枠に就職するのがクローズ就労(一般就労)です。当然ですが、クローズ就労では、就職先の選択肢が幅広くなります。健常者と同等に会社を選択するので、自分の取り組みたい業界、業種を見つけやすい傾向にあるでしょう。一方、デメリットとしては、健常者と同様の成果を要求されることや、体調面のコントロールがしづらいことが挙げられます。通院や服薬のタイミングが難しくなりますし、勤務形態や業務で合理的配慮を得られない場合もあります。

オープン就労(一般就労)

障害のあることを企業に開示して就職するのがオープン就労(一般就労)です。クローズ就労に比べると求人の選択幅が狭かったり、給与が低かったりするデメリットがありますが、オープン就労には障害者が働く上でのメリットが多くあります。まず、オープン就労であれば通院や服薬のタイミングを考慮してもらえるため、通院を理由にした休暇も取得しやすくなります。また、勤務形態や業務内容も会社に相談して配慮してもらえるのも大きなポイントです。障害についてよく理解してもらった上で働けるので、職場へ定着する可能性が高まります。さらに、近年では給与や職種の幅も広がりつつあります。

特例子会社

オープン就労であれば特例子会社への就職という選択肢もあります。特例子会社とは障害者の安定した就労を目的として設立された企業を指し、企業の子会社として存在しています。特例子会社に勤務している社員の多くは障害を抱える方です。特例子会社には障害に対するサポート環境が整っている会社が多く、障害に対する理解を得られやすい点が大きなメリットです。また障害者の能力発揮やキャリアアップのための取り組みに力を入れている会社もあります。オープン就労(一般就労)と比較すると求人数は少ない傾向にありますが、特例子会社であれば障害者が長く安定して働ける環境が整っています。

就労継続支援A型・B型

障害があるために、企業での一般就労は困難だという人も多くいます。そうした人がサポートを受けながら働ける事業所が就労継続支援事業所です。この就労継続支援事業所にはA型とB型があります。就労継続支援A型は雇用契約を結んで仕事を請け負うため、各自治体が定める最低賃金以上の給与で働くことが可能です。就労継続支援B型では、雇用契約を結ぶことなく事業所で作業を行いその出来高に応じて賃金が発生します。B型の工賃は最低賃金を下回ることが多いですが、自分のペースで仕事を行えます。就労継続支援事業所での仕事はデータ入力、軽作業、カフェのスタッフなど事業所によりさまざまです。一般就労にまだ自信がない方や、継続して働くことに自信がない方は就労継続支援A型・B型を検討してみても良いでしょう。

フリーランス

リーランスとは個人事業主を指します。働き方の多様性が認められていますが、それは障害者も例外ではありません。障害者がフリーランスになるメリットは、働きやすい環境を自ら創出することが可能な点です。仕事によってはテレワークも可能なので、働く場所の束縛がなくなります。スケジュールや活動内容、さらには関わる人物も自分で自由に決められるので、それも働くモチベーションにつながるはずです。一方で注意点は、すべてが自己責任という点です。健康管理やスケジュール管理、多くの事務手続きなどを自分で行う必要があります。仕事に関して誰かに相談したい時も、自分で相談する人を探さなければなりません。フリーランスには障害へのケアも含めて徹底した自己管理が求められるといえそうです。

 

障害者に向いている仕事

障害者の方が働く際は自分に合う仕事を選ぶことが大切です。ここでは障害者の方に向いている仕事を紹介します。

在宅ワーク

自宅で働く形態の仕事です。コミュニケーションが苦手な方や通勤が困難な方に向いています。在宅ワークの仕事にはデータ入力や記事作成などがあります。また、在宅ワークは自分のペースで進められる場合が多いようです。そのため、自分のペースで働きたい方にもおすすめです。

事務職

毎日決まった仕事を行う事務職も障害者の方に向いています。事務職であればコミュニケーション能力はあまり求められませんし、ノルマもありませんから障害者の方でも長く働ける可能性が高いといえます。

工場内作業

工場内作業も事務職と同様に毎日決まった作業を行う仕事なので、障害者の方でも働きやすいといえます。ただし、工場内作業は立ち仕事の場合が多いため、体力がある方に特に向いています。体力に不安がある方は座り作業に絞って仕事を探すとよいでしょう。

コールセンター(インバウンド)

コールセンター業務には自分から電話をかける仕事と、かかってきた電話に対応する仕事の2種類あります。前者をアウトバウンド、後者をインバウンドといいます。障害者の方に向いているのは後者の仕事です。インバウンドのコールセンター業務にはヘルプデスクやテクニカルサポートなどの仕事があります。ヘルプデスクやテクニカルサポートの仕事であればマニュアルが用意されていることが多く、マニュアルに沿って仕事をすればよいため障害者の方でも働きやすいといえます。

清掃

オフィスや商業施設、工場などを清掃する仕事です。掃除機・モップを使った清掃や、窓ふきなどを行います。事務職や工場内作業と同様に毎日決まった作業を行う仕事であり、仕事がマニュアル化されているケースも多いため、障害者の方でも少ない負担で働けるでしょう。人と接することも少なく、1人で黙々と働けるため、コミュニケーションが苦手な方に向いています。

デザイナー

デザイナーにはグラフィックデザイナー、WEBデザイナー、DTPデザイナーなど、さまざまな種類があります。発達障害を持つ方の中には、自分が興味を持つ分野で優れた才能を持ち、その才能を生かしてデザイナーとして活躍できる方がいます。デザインに興味がある方は、自分の能力を生かしてデザイナーとして働けるかもしれません。

仕事を長続きさせる3つのポイント

離職率の高さが障害者雇用の大きな課題だとお伝えしました。就職でのミスマッチを防ぎ、長期に健康を維持して働くためにはどうすれば良いでしょうか。ここでは3つのポイントを紹介します。早く就職をすることを優先せずに、長く元気に働ける就職活動を目指しましょう。

自分の障害について具体的に伝える

自身の障害についてより具体的に伝えられるように心がけましょう。障害のつらい症状だけを強調して伝える方は多いですが、長く継続して働く上では対処法が重要です。自分の症状への対応策として、どのような工夫をしているのか明確に示しましょう。例えばうつ病を患っている場合、「朝がとても弱く急に休む場合が多いです。」とだけ伝えるのは悪い例です。「朝はつらいですが、生活リズム表などを用いて体調管理を徹底しています。早めの睡眠を心がけるなど工夫しています。」など具体的な対応策を示しましょう。対応策が明確で工夫や努力が多いほど、急に体調を崩した際のリカバリーが効きます。

配慮が必要なことを明確にする

障害を抱えていると、配慮が必要な場合も多くあります。ここでも大切なのは具体性です。抽象的な表現にとどめずに会社側に何をしてもらえれば助かり、業務をスムーズに行えるのか伝えましょう。ADHDの方を例に挙げて考えてみます。「注意欠陥の傾向があるため、マルチタスクの業務は苦手なので配慮いただけると助かります。」この場合、何をどう配慮すれば良いのかが伝わりません。「注意欠陥の傾向があるため、優先順位をつけて作業できるように心がけています。恐縮ですが、どの業務を優先的に行うべきか都度教えていただけますと助かります。」これくらい何を求めているかはっきりと伝えましょう。

業務内容を正しく理解する

求人票やウェブサイトに記載されている情報は限られています。記載内容からイメージされる業務内容と、実際の業務内容が一致するとは限りません。業務内容は仕事を長く続けていく上で重要な情報です。障害を持ちながら本当に無理なく働ける環境であるか、慎重に判断しましょう。一緒に働く社員や社内の雰囲気、入社したら行う具体的な仕事など気になる情報の不明点はゼロにすべきです。面接の機会や人材紹介エージェントを活用して、綿密な情報収集を行いましょう。また障害者雇用の場合だと、入社前に体験勤務できる雇用前実習を行っている会社もあります。

まとめ

本稿では障害者が元気に働くための役立つ情報をまとめました。障害者雇用の現状、働くことの目的、具体的な就職先から長く働くためのポイントまで幅広く紹介したので、就職や転職活動中の方の参考になったのではないでしょうか。働くことは誰にとっても簡単なことではありません。特に障害を抱えていると、順調にいかないこともあります。しかし、社会は障害者と共生する明るい道を目指しています。障害を上手く伝える工夫をして、自分に合った職場を探しましょう。