障害者の就労定着支援について解説!利用するメリットや流れまで把握しよう
日本では、1960年代から障害者や障害児への支援を目的とした法律を定め、さまざまな施策が行われてきました。障害者の社会参加や就労、社会生活における公平性といった当たり前の権利を実現するために、法の整備や改正が行われてきた歴史があります。2003年には行政が一方的に決定する保健福祉サービスから、障害者自身が必要なサービスを選択できるように方針が変更されました。
その後も何度かの改正を経て、2013年4月に「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」が施行されました。現在の障害者保健福祉サービスは、この「障害者総合支援法」に基づくもので、「就労定着支援」もその一つです。
本記事では、障害者の就労定着支援とはどのようなものか、また、利用対象者や利用期間、料金、利用するメリットなどについてご説明します。
障害者の就労定着支援とは?
就労定着支援の制度は、障害者が就労のための支援を受けて一般就労しても離職率が高い、という問題を解決するために設けられました。これまでも関連の事業所や公的機関で支援を行っていましたが、それだけでは手が回らない部分が多くありました。そこで、2018年4月、改めて法律により支援を事業化し、国からの報酬を手厚くすることにしたのです。この事業は基本的に、これまで障害者の就労支援を行っており、障害者の一般就労と継続雇用の課題をよく知る事業者が担うこととしました。
就労定着支援の目的は、支援を受けて就労した障害者の離職率を下げ、職場に定着して安定した生活ができるように導くことです。
障害者の就労定着支援をより詳しく知ろう!
では、障害者就労定着支援事業所とは、どのようなところなのでしょうか。
ここでは、サービスを提供する事業者についてみていきましょう。
就労定着支援に必要な3つの基準
就労定着支援事業所としてサービスの提供を行うには、事業所所在地の自治体で障害福祉サービス事業者に指定されなければなりません。まずは地域の支援センターに事前相談を行い、その後申請書を提出し、審査に通る必要があります。これは、既にほかの障害福祉サービス事業者に指定されている場合も例外ではありません。審査を通過するには、以下の3つの基準を満たしている必要があります。
- 人員基準:従業者に知識や技能が備わっていること、人員配置の基準を満たしていること
- 設備基準:必要な設備が揃っており、基準を満たしていること
- 運営基準:事業所運営にあたって事業所が行うべき事項や留意事項の基準を満たしていること
これらの基準は自治体により多少異なりますが、いずれも利用者が適切なサービスの提供を受けるために定められたものです。つまり、就労定着支援事業所は、設備や運営体制などの十分な環境があり、専門知識や専門技能を持った人材が職場定着のための支援をしてくれる場所なのです。
支援における目的
就労定着支援の目的は、障害者が一般企業に雇用された場合に、長期間継続して就労できるようにすることです。障害が原因で起こる日常生活や社会生活の課題に対し、関係者からよく話を聞いて指導や助言を行い、離職につながらないように支援します。職場や本人、家族、医療機関、福祉施設などと連携をとって課題を解決に導くこともあります。
実際の支援内容
就労定着支援が実際に始まると、支援者の最初の仕事は「利用者の話を聞くこと」となります。厚生労働省の「障害者総合支援法における就労系障害福祉サービス」によれば、就労定着支援では、月1回以上の障害者との対面支援を行うことと、努力義務として月1回以上の企業訪問を行うこととしています。例えば障害者の場合には、現在の体調をはじめ、勤務状況、できる業務、障害があるためにできない業務、配慮があればできる業務、企業担当者に伝えたいこと、職場で困っていること、日常生活で困っていることなど、さまざまな内容を細かくヒアリングします。
また、企業担当者の場合には、勤務状況、受け入れ態勢についての相談、社員の障害の理解に関する相談、本人に伝えてほしいことなどについてヒアリングを行います。双方の話から課題が見つかれば、その課題をクリアするために指導や助言を行います。課題の解決に必要な場合には、医療機関に同行したり、自宅を訪問して家族や本人の生活状況を確認したり、企業訪問を行ったりします。
就労定着支援を利用する前に知りたい4つのポイント
就労定着支援が障害者総合支援法に基づいて最近の改正時に設けられた制度であることと、それを行う事業所の条件や、事業の内容をご紹介しました。
ここでは、就労定着支援を利用できる対象者や利用できる期間、料金、申し込み方法など、利用者側から見て気になる部分を具体的にご紹介します。
1.利用対象者
障害者総合支援法の対象となるのは、身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害者を含む)、政令で定める難病等により障害がある者で18歳以上の者、とされています。しかし、就労定着支援サービスを受けるにはさらに以下の条件に当てはまらなければなりません。
- 就労移行支援・就労継続支援A型B型・自立訓練・生活介護を利用して一般就労した者(障害者手帳を持っていなくても、障害福祉サービスの利用を経て一般就労した場合には利用することができる)
- 一般就労に伴う環境変化により生活面・就業面の課題が生じている者
- 一般就労後6ヶ月を過ぎている者
2.利用期間
就労定着支援事業所の利用期間は最大で3年となっています。ただし、就労から6ヶ月経過してからの利用となるため、実質3年6ヶ月となります。最初の6ヶ月の間は、就労の際に利用した事業所が定着支援も続けて行う場合が多いようです。そうでない場合は、生活支援センターなどの地域の障害者就業・支援機関が連携して定着支援までサポートを行います。
3.利用料金
障害福祉サービスの利用料金は自治体や本人の収入、利用する事業所などにより異なりますが、原則として利用者の自己負担は料金の1割となっています。詳細は利用する事業所や自治体に問い合わせましょう。
なお、負担上限額は以下の表のとおりです。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限額(月額) |
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) | 9,300 |
一般2 | 上記以外 | 37,200 |
4.申し込み方法
就労定着支援を利用したい場合には、住んでいる地域の役所の健康福祉課や地域保健福祉センターなどに連絡します。そこで心身の状況などを相談してサービス利用計画(案)を作成し、申請するという流れになります。不安になる方もいるかもしれませんが、これまで利用していた事業所やあらかじめ相談している支援センターなどがあれば、サービス利用計画(案)などは一人ではなく相談しながら作成することができるので安心です。申請が通ると役所から受給者証が送られてきます。その後改めてサービス利用計画を提出し、事業所と利用契約を結び、正式に利用開始となります。
就労定着支援を利用するメリット
一般就労し新しいスタートを切った障害者は、それまで受けていた障害福祉サービスという「相談場所」を失うことになります。障害が原因で困りごとや体調不良などが起こった際に、相談場所がなく離職してしまう場合も考えられます。一方で、障害者の雇用に慣れていない企業などでは、障害者本人が困っていることや具体的な対応について理解することができず、悩む場面もあるでしょう。このようなお互いの不安や疑問を、解決に向けて支援するために就労定着支援の制度があるのです。
ここでは、就労定着支援の利用について、事業所や企業と障害者当人のメリットをご紹介します。
事業所・企業側のメリット
就労定着支援事業所では、利用者と月に1回以上の面談を行い、本人の体調や生活状況などを把握し安定した勤務ができるようにサポートします。また、必要であれば家庭や医療機関、他のサポート機関などとの調整を行い、職場とのスムーズな連携や情報共有を行います。このようなサポートにより、障害者の職場定着率が上がるのです。一方で、企業訪問を行い、障害者を迎え入れた職場に対するサポートも行います。そのため、企業は障害者雇用に関するノウハウを構築することができます。
利用者のメリット
就労定着支援のサービスでは、利用者との月に1回以上の対面支援が義務付けられています。このとき、利用者は仕事や生活に関する悩みなどを相談できます。一般的に多いのは、以下のような悩みです。
- 遅刻や欠勤が増えた
- 寝不足のせいか、居眠りしてしまう
- 身だしなみを整えるのが大変になった
- 急にミスが増えた
- 上司や同僚とのコミュニケーションがうまくいかない
- 給料をもらっても金銭管理がうまくいかない
このような悩みを一人で抱えているのは苦しいことで、やがては離職につながってしまいます。担当者は必要に応じて企業の担当者や上司との仲介役となって調整を行ったり、医療機関の助けが必要ならば連携したりして悩みの解決にあたります。また、必要な配慮について会社に言えない、言いにくい、などという場合には企業担当者との調整を行ったり、企業訪問をして話し合いに同席したりしてサポートします。
就労定着支援を利用する場合の流れ
前出ですが、就労定着支援を利用するには、一般就労後6ヶ月を過ぎていなければなりません。
では、就労定着支援の利用までの流れはどうなっているのでしょうか。
事前支援期
就労定着支援を利用するには、その前に就労移行支援や就労継続支援A型B型、自立訓練、生活介護などの障害福祉サービスを利用しているという条件があります。そこで、就労定着支援利用開始までの6ヶ月、一般就労してからも前出の障害福祉サービスを受けながら準備するのが一般的です。
また、現在利用している障害福祉サービスがそのまま定着支援まで行う場合も多く、就労定着支援へ移行するための準備段階として、就労先との必要な配慮、条件などのすり合わせを行って就労への不安を取り除き、本人の目標の整理などを支援します。なお、この時期に就労定着支援についての説明を行います。
集中支援期
一般就労後5~6ヶ月の時点で、これまでに出てきた課題について改善するよう努めます。また、サービス利用計画(案)の作成や受給者証発行の申請など、就労定着支援利用に関する具体的な手続きを行います。同じ事業所で続けて定着支援を受ける場合には、その事業所で利用契約手続きを行うことになります。
就労定着支援サービス開始
一般就労後7ヶ月目から、就労定着支援サービスに移行します。その前まで利用していた障害福祉サービス事業所が定着支援サービスも行っている場合には、そのまま続けてサービスを受けられます。また、他の障害福祉サービス事業所を終了し、就労定着支援サービスだけ別の事業所に申し込み、利用する方もいます。就労定着支援サービスの利用期間は3年です。3年を超えてサポートが必要な場合には、就労定着支援サービス事業所との契約を終了し、障害者就業・生活支援センターなどの地域の支援機関に引き継がれます。
就労定着支援が受けられる主な事業所
さて、就労定着支援を受けられる条件として「障害福祉サービスを利用して一般就労したこと」と前述しました。実際に、他の障害福祉サービスを行っている事業所が続けて就労定着支援も行っていることが多いのです。ここでは、それぞれの障害福祉サービスについてご紹介します。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所とは、本人が一般就労を希望しており、実際に一般就労の見込みのある方が利用する障害福祉サービス事業所です。職業指導員、生活支援員、就労支援員が常勤しており、事業所で必要な訓練や実習を行ったり、支援員の助言を得ながら自分に合う職場を探したりして就職するまでのサポートを受けられます。原則として利用期限は2年ですが、2年以内に一般就労した場合には、就労定着支援に移行して引き続きサービスを提供する事業所が多くあります。
障害者就業・生活支援センター
地域障害者職業センターは、独立行政法人「高齢・障害求職者雇用支援機構」が運営する機関で、地域ごとにセンターがあります。地域ごとに多少の違いはありますが、主に行う支援は以下のとおりです。就労の準備段階での支援が多いようですが、就職後の就労定着支援も行っています。
- 職業相談、職業評価
- 本人の希望や適性などの相談、今後の方針の決定
- 職業準備支援
- 障害の把握、就労に向けての労働習慣(生活習慣)の取得
- 必要に応じて職業訓練などを行う
- 履歴書の記入方法や面接の受け方などの指導
- 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援
- 障害者と事業主双方の間に入って、課題や問題点が発生したときには双方の意見を聞き、解決策を助言。障害者が安定して働くために、障害者本人、事業主、家族に対して関係機関と連携してサポートを行う。
- リワーク支援
- メンタルヘルスの不調で休職中の方が復職するための支援
- 休職者、企業担当者、主治医の3者の間に入って調整を行い、復職をコーディネートする
- 就職後のサポート(就労定着支援)
- 主に雇用主の方が雇用管理の面で困っている場合に相談をうける
- 本人の障害特性や原因など、雇用主と障害者双方の話を聞き、困りごとを解決するための助言を行う
- ジョブコーチの介入が必要な場合にはそれを行う
その他
ここまで就労定着支援を受ける条件として、保健福祉サービスを利用していること、と前に述べました。そのうちの1つが、上記の「就労移行支援事業所」です。その他には「就労継続支援A型、B型」「自立訓練」「生活介護」などがあり、実際にこれらのサービスを経て一般就労し、就労定着支援を受ける方もいるでしょう。
ただし、「就労継続支援事業所A型、B型」は、原則として一般就労が不安であったり困難であったりする場合に利用の選択肢として挙がるもので、必ずしもすぐに一般就労に結びつくものではありません。また、「自立訓練」は、自立した生活を送るための身体機能や生活能力を維持・向上させるための訓練などを行うサービス、「生活介護」は常に介護を必要とする方に創作活動や生産的活動の機会を提供するサービスです。
このため、これらのサービスは一般就労に結びつく数が就労移行支援事業所よりも少なくなってしまうのが現状です。もちろん、一般就労した場合には、同様に就労定着支援を受けることができます。
もう一つ、就労定着支援を受けられる場所として、民間企業があります。
障害者雇用には、法定雇用率があり、それ以上の障害者を採用しなければなりません。そして、採用時のコストやその後の生産性、障害者本人のやりがいなど、職場に定着して長く働いた方が双方にメリットがあるでしょう。政府は、障害者の職場定着について一定の対策を施している企業に対して「障害者職場定着支援奨励金」を支給しています。このような企業に一般就労したならば、就労定着支援と同様の支援が受けられます。
民間企業なら障害者職場定着支援奨励金の申請も可能!
前述した「障害者職場定着支援奨励金」について、もう少し詳しくご説明しましょう。
支給要件
支給要件には、対象労働者と、職場支援員の人員配置があります。
対象労働者 |
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職場支援員とは、以下のような方のことを言います。
- 精神保健福祉士、社会福祉士、作業療法士、臨床心理士、産業カウンセラー、看護師、保健師または障害者雇用 促進法第24条に規定する障害者職業カウンセラーの試験に合格し、かつ指定の講習を修了した方
- 特例子会社または重度障害者多数雇用事業所での障害者の指導・援助の実務経験が2年以上ある方 障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所などの障害者の就労支援機関で、障害者の就業に関する相談 の実務経験が2年以上ある方
- 障害者雇用促進法第79条第1項に規定する資格認定講習を受講した、または障害者職業生活相談員として届け出ら れた方で、当該講習受講修了後または資格取得後に3年以上の実務経験がある方
- 職場適応援助者養成研修を修了した方
- 労働安全衛生法第13条に基づき雇入れ事業主が企業内に配置する産業医以外の医師
人員配置 (雇用) |
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人員配置 (業務委託) |
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人員配置 (委嘱) |
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支給額
支給対象期間:2年間(精神障害者は3年間)で、支給対象期(6ヶ月)ごとに支給
- 人員配置が「雇用」または「業務委託」の場合
- 対象労働者1人当たりの月額 × 対象労働者が支給対象期中に実際に就労した月数
中小企業以外 | 中小企業 | |
短時間労働者以外 | 3万円/月 | 4万円/月 |
短時間労働者 | 1.5万円/月 | 2万円/月 |
- 人員配置が「委嘱」の場合
- 委嘱による支援回数 × 10,000円を支給
(支援を実施した月数に上表の対象労働者1人当たりの月額を掛けた額が上限となる)
- 委嘱による支援回数 × 10,000円を支給
まとめ
かつて障害者の差別を禁じ公平な雇用の機会をつくるために障害者雇用率などを定めた「障害者雇用促進法」により、障害者の就労機会が増え、次にはそれに対応するサポートが課題となりました。障害者が一般企業で働くとき、どうしても周囲と同じようにできないことが発生します。そのようなとき、どのような対処や配慮が必要か、障害者本人も、雇用する側も考えなければなりません。しかし、経験が少なければ分からないことやお互いに意見を交わすことすら難しい場合もあるのです。
就労定着支援は、経験豊富な専門家が障害者をとりまく環境を調整し、職場に定着し長期間働くための支援を行います。
専門家の支援を上手に利用し、障害者を雇用する側、雇用される側双方が安心して働ける環境づくりを目指しましょう。