聴覚障害の方に適した仕事とは?|自分にあった働き方の実現に向けて

2020年7月13日

聴覚障害の方が、仕事をする中で感じる困難は様々です。特に聴覚障害の場合は、「音が聞こえない」という一方的な認識だけを持たれ、一人一人の障害の状況を適切に理解してもらえないことも多いです。今回は聴覚障害の方が働きやすくなるためにできることをまとめました。

聴覚障害の方の仕事上でのよくあるお悩み

聴覚障害の方は、単に「音が聞こえない」ということに留まらず、仕事の様々な局面で悩みを抱えることがあります。具体的には以下のようなケースがあります。

障害特性に対して正しい理解が得られない

聴覚障害と言っても、失聴時期や聞こえの程度、障害のある部位などによって、一人一人特性が異なります。そのことが十分に理解されていないと、聞こえづらさを理解してもらえずに必要な配慮を受けられないことがあります。

例えば以下のような違いが理解されていないことが多いです。

聞こえにくさの違いが理解されていない

聴覚障害の方の中には、小さな音が聞こえにくい軽度の方から、日常の音がほとんど聞こえない重度の方まで、様々です。補聴器で音を大きくすれば聞こえるようになる方もいれば、補聴器を使用しても聞こえない方もいます。

聞こえる音の大きさだけでなく、聞こえ方にも違いがあります。中耳よりも外側の部位に障害のある伝音性難聴の場合、耳鼻科での治療や補聴器の使用によって聞こえにくさを補うことができることもあります。しかし、内耳より内側の部位に障害のある感音性難聴の場合、補聴器を使用したとしても、音が歪んだり響いたりすることによる聞こえにくさが残ることもあります。

こうした違いが理解されていないことにより、「補聴器を使っていれば聞こえる」などの誤解を受けることがあります。

コミュニケーション方法の違いが理解されていない

聴覚障害の方のコミュニケーション方法としてよく知られている手話は、特に先天性の聴覚障害の方や重度難聴者の方の場合、手話を母語にしている方が多いです。一方で、ある程度音声言語を習得した後に失聴した、後天性の聴覚障害の方の中には、手話をほとんど使わず、健聴者の方と変わらず滑らかに話す方もいます。この場合、何度も聞き返したり筆談を求めたりしても、「話せているから、本当は聞こえているはずなのに、怠けている」と思われ、十分に対応してもらえないことがあります。

うまくコミュニケーションがとれない

聴覚障害の方は、補聴器を使って聴力を補う他、手話や筆談、相手の口の動きを読み取る口話といった方法でコミュニケーションを取っていますが、日常的に音声言語を使用している健聴者の方との間に壁を感じる場面も多々あります。例えば以下のような場面に遭遇します。

意味を取り違えたり、細かいニュアンスを汲み取れなかったりすることがある

手話は音声言語に比べて語彙数が少なく、手話の種類によっては音声言語と文法が異なります。そのため、手話でコミュニケーションを取ることの多い方の場合は、指示語や暗示、比喩などの複雑な表現を使われると、意味を正しく理解できないことがあります。失聴時期と教育環境によっては言語の習得に遅れが出やすいということも、言葉の理解に影響を及ぼします。

また、筆談など文字で情報を伝えてもらう際、概要のみの伝達になりがちで、細かいニュアンスが分からず、相手の気持ちに寄り添うことが難しいと感じる方もいます。

複数の人の話についていくことが難しい

会議など複数の人が話している場面では、座っている場所などの条件によっては、誰が話しているのか分からず、口の動きを読むことができない場合があります。手話や筆記によって情報を補足してもらう場合でも、聴覚障害の方に話が伝わるまでにタイムラグが発生することがあります。その結果、自分の意見を発する機会を得られない、その場で質問できず理解不足に繋がる、といったことがあります。

重要な情報を、聞き取れなかったり、聞き間違えたりすることがある

聴覚障害の方の中には、小声や早口で話される、雑音が多い、といった状況によって聞こえが大きく左右されるという方もいるため、重要な情報を漏らさず正しく聞き取ることが難しい場合があります。また、非常ベルや災害情報など緊急度の高い情報は、音声のみで伝えられることも多く、緊急時にリアルタイムで情報を入手できないことを不安に思う聴覚障害の方もいます。

事務的な連絡ばかりで、相談する相手がいない

聴覚障害の方は、健聴者の方との間にコミュニケーション上の壁を感じやすいことから、雑談や日常会話に苦手意識を持っている方も多いです。特に、筆談を面倒がられる、何度も聞き返さなければならない、ということが苦痛に感じられて、話しかけるのが申し訳ないと思ってしまう方もいます。このことにより業務外のコミュニケーションが減ってしまうと、気軽に相談できる相手がいない、職場の中で孤立する、といった状況にもなりかねません。

「聞こえづらい」以外の症状への理解が得られない

聴覚障害の方には、気圧の変化などの天候によって、めまいや耳鳴りが起きる方もいます。加えて、手話や口話をする際、相手の手や口の動き、表情を読み取るのは、かなり集中力の必要な作業であり、疲れが出やすいものです。聴覚障害の特性について、周囲の方からあまり理解されていないと、「聞こえていれば問題ない」と考えられ、体調について相談できず一人で悩むことにも繋がります。

聴覚障害の方が、働きやすい職場環境を実現するためにしておきたいこと

それでは、こうした悩みを和らげるために、聴覚障害の方が自身で工夫できることについて、考えてみましょう。

聴力や障害特性について、正確に把握し、職場内に伝える

聴覚障害の方の障害の状況は、一人一人異なります。そのため、何ができて何ができないのか、どのように配慮してもらえれば十分に仕事をこなすことができるのか、自分自身で正しく説明できるようになると良いでしょう。特に聴覚障害に対しては「聞こえない」という一括りのイメージを持たれていることも多いため、「呼びかける時は肩を叩いて欲しい」「会議では話している人の顔の見える場所に座らせて欲しい」などと、配慮してもらいたいことを場面ごとに具体的に伝えておくことが有効です。

様々な方法でコミュニケーションをとれるようにする

聴覚障害の方は、日常生活では、自分が最もよく慣れているコミュニケーション方法を取ることが多いかと思います。しかし仕事をする中では、周囲の音、空間の広さ、会話・会議中の情報量といったコミュニケーションの環境が様々に変わる可能性があり、一つの方法では対応できないこともあります。補聴器などの機器が急に動かなくなる、普段は手話通訳をお願いしているが急遽通訳者が対応できなくなる、ということも起こりえます。そのため、様々な状況に対応できるよう、複数のコミュニケーション方法に慣れておきましょう。補聴器を使用しての音声会話や口話、手話、筆談の他、チャットやスマホアプリなどのツールも活用できると便利です。

仕事の状況や体調について上司に共有する

コミュニケーションの仕方を、自分に合うように工夫したとしても、聞き間違いや聞き逃しが起きてしまうことはあります。上手く聞き取れていないことがないか確認するためにも、仕事の進捗を積極的に伝え、迷うことがあれば早めに相談するようにすると良いでしょう。仕事の状況について話す機会を増やすことは、聴覚障害のために情報不足になっているのではないかという不安を解消するのにも役立ちます。

また、気圧などの状況によっては体調が悪くなるということも、事前に伝えておき、体調変化のきっかけが見られた時や、実際に体調が悪くなった時は、すぐに伝えるようにしましょう。

聴覚障害の方に向いている仕事や職場環境

聴覚障害の方が気持ち良く働けるようになるには、コミュニケーション方法などを自分で工夫するだけでなく、仕事や職場環境を適切に選ぶことも重要です。今の仕事や職場環境が自分に合っているかどうか、次のような点に注目して考えてみましょう。

座席位置やコミュニケーション方法において、特性に応じた配慮が受けられる職場

自分の障害特性に応じてコミュニケーション方法や仕事の進め方を工夫するためには、障害に対する周囲の理解が必要です。一人一人の障害特性を丁寧に聞いてもらえ、聴覚障害の方の求めに応じて柔軟に対応してもらえる職場環境であれば、コミュニケーション方法を柔軟に変える、話者の口の動きを読み取りやすいよう座席位置を変えてもらう、といった工夫もしやすくなります。

PCを使う仕事

聴覚障害の方は、電話応対などの音声でのコミュニケーションがあまり多く求められない仕事を選ぶと良いでしょう。中でもPCを使う仕事は、一人で作業する時間が長く、指示を受ける際もメールやチャットなど文字を使ったツールを使いやすいため、コミュニケーションの負荷が小さく従事しやすいと言えます。また、聴覚障害の方には、集中力があり高い正確性を発揮する方もいることから、一人で取り組める作業が向いている方も多いと考えられます。体力面での負担の少ないテレワークに切り替えやすいのも、PCを使う仕事の良いところです。

仕事や体調について、定期的に相談できる上司がいる職場

仕事の状況や体調について、積極的に伝えようと思っても、職場環境によっては自分から言い出しにくい、ということもあるでしょう。定期的に相談する相手と時間が決まっていると、相談しやすくなります。定期的にコミュニケーションを取ることは、職場内での孤立を防ぐことや、情報不足や理解不足に早めに気付くことにも役立ちます。

聴覚障害の方が働きやすい仕事・職場環境を見つけるために

聴覚障害の方が、今よりも働きやすい仕事や職場環境を見つけたいと思った時は、障害者雇用枠での転職を検討すると良いでしょう。障害者雇用枠の場合、障害特性に対する理解や配慮が得られやすくなります。またその際、障害者雇用専門の転職エージェントに登録すると、障害の伝え方や、障害特性を考慮した仕事・職場環境の選び方について相談できるのでおすすめです。自分に合った仕事・職場環境を見つけて、いきいきとした職業生活を送りましょう。