自閉症スペクトラム(ASD)の方はITエンジニアに向いている?

自閉症スペクトラムは自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害をまとめて表したものです。近年、この自閉症スペクトラムをお持ちの方が活躍する仕事として、ITエンジニアに注目が集まっています。この記事では、自閉症スペクトラムの方の特性を踏まえた上で、ITエンジニアの業界での活躍の背景について解説していきます。

自閉症スペクトラム(ASD)とは

自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群など色々な名称で呼ばれていたものを、2013年に自閉症スペクトラム(ASD:Autism Spectrum Disorder)としてまとめて表現することになりました。自閉症スペクトラムは、多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる先天性の脳機能障害で、全人口の1%にも及ぶといわれています。症状は様々ですが、言葉の遅れ、オウム返し、会話が成り立たない、格式ばった言葉など、言語やコミュニケーションの障害が見られることが多いです。他者と関心を共有することが難しく、社会性の低下も認められます。友人が出来にくかったり、友人がいても一方的な関係であったりと、感情を共有することが不得手で対人的相互関係を築くのが難しいです。

一方で、シリコンバレーで働く人の中に自閉症スペクトラムの人が多くいるということから、シリコンバレー症候群という別名が使われることがあります。自閉症スペクトラムの一部の人はIQ、記憶力、集中力が高く、特定の分野と細部に強いこだわりを持ち、優れた観察力を持っています。これらの優れた能力から自閉症スペクトラムの人は、高いプログラミング能力を持つことがあります。

ITエンジニアの仕事内容とは

ITエンジニアは、IT(Information Technology:情報技術)の技術者たちを総称した職業です。

ITエンジニアには様々な種類がありますが、自閉症スペクトラムの人に向いているのはプログラマーやネットワークエンジニアと言われています。プログラマーはシステムエンジニアが設計した仕様書を使ってプログラミングをするのが仕事です。ネットワークエンジニアは個々のコンピューターをつなげるためのネットワークシステムを構築、運用する仕事です。

自閉症スペクトラム(ASD)の人がITエンジニアとして活躍している背景

ここでは自閉症スペクトラムの人がITエンジニアとして活躍している背景について紹介します。

口頭でのコミュニケーションが苦手である一方、論理的な思考が得意であるため

自閉症スペクトラムの人は曖昧な表現や建前を文字通り受け取ってしまうなど口頭でのコミュニケーションが苦手です。一方で論理的思考が得意な人が多く、プログラムやネットワークの構成や構築に真価を発揮します。

強いこだわりを持って、一つの仕事や業務に取り組めるため

自閉症スペクトラムの人は興味のある分野に関しては強いこだわりがあります。仕事が興味のある分野であった場合は徹底的に没頭し、根気よく作業を継続することができます。見落としがちな細かいバグや修正箇所を次々と発見し、品質の高いプログラムやネットワークシステムを作成することができます。

記憶力に優れ、新技術への適応が容易にできるため

一般的な定型発達の人は、幼少期ほど人名や地名などを反復して脳に刷り込む「単純記憶」が得意な傾向にあります。大人になるにつれて、「単純記憶」は不得意になっていきます。一方で自閉症スペクトラムの人は大人になっても「単純記憶」が得意な人が多いです。ITエンジニアは常に新技術を覚える必要があります。例えばプログラミングではJavaやC言語、PHPに加えて、RubyやPythonなどの新しいプログラミング言語を覚える必要がありますが、「単純記憶」が得意な自閉症スぺクトラムの人はプログラミング言語の習熟のスピードが早く、新技術への適応が容易と言われています。

高い集中力を持って、作業ができるため

ITエンジニアの作業の中には緻密で根気が必要なものもあります。例えば、プログラムコードが動作するかのテスト項目は100を超えるものも多く、テスト結果に不具合やバグが含まれていた場合はその都度修正が必要になります。単純作業が多く、普通の人が音をあげそうな業務でも高い集中力とこだわりをもって最後まで取り組むため、大きな業績を達成することもあります。

自閉症スペクトラム(ASD)を抱えたITエンジニアにとって働きやすい職場環境とは

ここでは自閉症スペクトラムのITエンジニアが働きやすい職場環境について紹介します。

視覚コミュニケーション(チャットや資料)を用いて仕事を進められる職場

自閉症スペクトラムの人は口頭での指示といった聴覚のコミュニケーションよりも、写真、絵、図、チャット、資料などの視覚を使ったコミュニケーションの方が伝わりやすいと言われています。口頭での指示よりも、スケジュール表や工程表などの図を使ったチャートの方が理解しやすい傾向にあります。また、自閉症スペクトラムの人は耳からの情報処理が苦手で、指示が聞き取り辛かったり、聞き間違えたり、長い口頭での説明が分からなくなったりする場合があります。また、同時に複数の情報を聞くと、注意をどれに向けていいのか混乱してしまうことがあります。メモやメールなどの文書やホワイトボードなどで1つずつ伝えてもらうようにし、指示されていることに漏れがないように些細なことでもメモを取るようにしましょう。自閉症スペクトラムの人はマルチタスクが苦手なことが多いので並行作業は避けてもらうようにし、1対1の対面で指示をしてもらいましょう。

具体的な指示を出してもらえる職場

自閉症スペクトラムの人は「適宜」や、「適当に」といった曖昧な表現をされると混乱することがあります。何のプログラムをいくつテストして、何日の何時何分までにテスト結果をプリントアウトしてくださいといった具体的な指示の方が自閉症スペクトラムの人にとっては安心できます。自閉症スペクトラムの人は仕事を円滑に進めるだけでなく、ストレスを抱えないためにも具体的な指示を出してもらうようにしましょう。また、社内のマニュアルにも「部長の空いた時間に」など曖昧な指示が入ってることがあります。業務の処理中に混乱したり、極端な対応をとったりしないためにも、自分の特性に合わせた自分専用のマニュアルを作成し、業務処理中のコミュニケーションのズレを生まないように同僚の人に問題ないか確認してもらうと良いでしょう。

適度な休憩がとれる職場

自閉症スペクトラムの人は「自分の体調を把握しづらい」という特徴があります。仕事をし続けて休憩もせずに作業をして、倒れこんでしまうこともあります。アラームが鳴ったら何分間休憩するなど、ルールを決めましょう。また、聴覚系の感覚過敏がある人は静かな環境でないと集中できず、ストレスが溜まります。ノイズキャンセル機能のあるイヤホンを使うのがおすすめです。

自閉症スペクトラム(ASD)の人がITエンジニアとしてより良い働き方を実現するために

ここでは自閉症スペクトラムの人がITエンジニアとしてより良い働き方を実現するために2つのポイントを紹介します。

障害者枠で働くという選択肢

障害者枠で働くためには障害者手帳が必要です。給与水準が低く、一般枠と比べると就職先が少ないというデメリットがありますが、障害を開示することによって、職場で障害についての配慮を受けることができ、通院、服薬を優先できます。また、支援機関によるサポートも受けることが可能です。障害を隠して就労する精神的負担がないことも大きなメリットの1つです。

障害者枠で転職を考えるなら、障害者雇用専門の転職エージェントへの登録がおすすめ

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企業側の受け入れ準備を見極めた上で紹介を行うので、企業と自閉症スペクトラムの人とのミスマッチをなくすことができます。履歴書や職務経歴書、自己PR文についてアドバイスももらうことができるので書類選考の通過率も良くなります。また、面接対策もしっかりと行ってくれるため、内定をもらえる確率が高くなります。入社後もしっかりとしたフォローがあり、職場で働き辛いことや伝えにくいことを代わりに伝えてくれます。

まとめ

自閉症スペクトラムの人がITエンジニアとして活躍する背景、ITエンジニアの自閉症スペクトラムの人が働きやすい職場環境について解説してきました。自閉症スペクトラムの特性は、ITエンジニアとしての強みになること、一方で働く上でのハードルにもあることがわかったと思います。障害について配慮があり、自閉症スペクトラムの適性が活かせるITエンジニアの職場への転職をお探しの方は転職エージェントへの相談も検討してみてください。