ASD(自閉症スペクトラム)の人に向いてる仕事とは?

ASD(自閉症スペクトラム)を持つ人には特有の困りごとがあります。当事者だけでは解決できない問題もあり、上司や周囲の人のサポートが必要です。一方で、ASD(自閉症スペクトラム)の特性も活かしながら、仕事において活躍している方も多くいます。アメリカのIT業界では、最前線で活躍しているASDの方が多くいると言われています。ASDの強みの一つに、興味のあることはとことん突き詰める性質があります。この記事では、ASDの人に向いている仕事を探っていきます。

ASD(自閉症スペクトラム)の人の仕事上でのよくある困りごと

ASDの人は仕事をする上で問題になる症状が幾つかあります。ASDの人が働く上でよくある困りごとをまとめました。

口頭でうまくコミュニケーションがとれない

ASDの人の特徴としてコミュニケーションの難しさが挙げられます。具体的には、

-他人の発言を繰り返す

-身振り手振りの意味を察することができない

-質問の意図が理解できない

-比喩や冗談を理解できない

などが挙げられ意思疎通がうまくできず、コミュニケーションに齟齬が生じやすい傾向にあります。特に口頭でのコミュニケーションに困難を抱えることが多く、業務においては、適切なコミュニケーションの手段を考えないといけません。特徴が理解されないままコミュニケーションが問題となり業務に支障が出ては本末転倒です。ASDの人は、周囲から変わった印象を持たれがちですが、それらはASDの症状である社会的コミュニケーションの難しさや、話し言葉の特異性から来るものです。ASDの特性について本人も職場の人も十分に理解し、対処法を事前に共有するなどで仕事が円滑にいくような工夫をする必要があります。

マルチタスクがうまくこなせない

ASDをお持ちの方の多くは、決まった手順を遂行する仕事を得意とします。逆に、変化に対処したり、同時並行的(マルチタスク)に仕事をこなしたりすることは苦手です。マルチタスクが苦手なのは、ASDの人の短期記憶の弱さが影響しています。その影響もあり、仕事上では作業の進行がマイペースで、過度に丁寧になりがちです。業務上で急な予定変更などがあった時に、臨機応変な対処が出来ずにパニックに陥ることがあります。そのようなハードルを解消するためには、頭の中だけで記憶するのではなく、逐一メモを取ることが良いとされています。頼まれた仕事を正しく理解できているか確認するため、メモの内容を声に出して読み上げ、仕事の頼まれた相手に確認するとより良いでしょう。また、ASDの人は、仕事の全体像を把握してから作業の優先順位を決め段取りを行うことが苦手です。自分のペースで進められる業務が適しています。作業をリストアップしてパターン化をしたり、事前に優先順位をつけたりすると、よいでしょう。マルチタスクの仕事をASDの人に振るのではなく、今するべきことを上司がコントロールしてあげる関係がいいでしょう。

職場内で障害特性が理解されない

ASDの人は、障害特性が周囲に理解されないことが往々にしてあります。業務中でも、相手の気持ちをうまく推し量れない、その場にあった行動ができない、といったことが起こります。これらの症状は障害が原因であっても、見た目からは判断がしにくいため、周囲の人から気付かれにくい上、理解されないことも多いです。周囲からは本人の性格の問題と思われたり、育ち方が悪かったのだと誤解されたりします。こういったトラブルは、本人も家族もつらい思いをします。適切な対策がなされずに、退社へと追い込まれるケースもあるでしょう。

その他のASDの症状としては感覚過敏があります。パニックの一因になると言われ、これも職場内で理解されにくい症状の一つとなっています。理解されないことに本人は憤りを感じるでしょう。

ASDにどういう症状があり、何を理解してもらいたいのか整理することが対策の第一歩といえるでしょう。その上で、前もって会社側に自分の症状を伝え、適切に対処してもらうことを求めましょう。

ASD(自閉症スペクトラム)の人が仕事をしやすくするためにできること

ASDの人には得意なことと不得意なことがあります。ASDの人が仕事をする上で不得意なことに当たったときの対処法と、周囲の人の対応をご紹介します。ASDの人が活き活きと働くためには、本人と周囲の人の理解が必要不可欠です。

視覚情報を用いてコミュニケーションをとる

ASDの人は話し言葉で説明されるよりも、文字やイラストで示された方が理解しやすく納得しやすいという傾向があります。文字やイラスト化することを専門用語では視覚的構造化と言います。構造化とは、物事に秩序を持たせるために、分かりやすくしてくれる枠組みを設定することです。

例えば、ASDの子供には、朝起きて学校に行くまでの一連の道さをイラストや文字で示します。顔を洗う、着替える、朝食を食べる、歯を磨く、などをイラスト化します。目で確認しながら準備できるため、本人は安心感を得られます。また、部屋も休む場所、勉強する場所などを仕切りやカーペットで区切っておくと、環境が整理され場所にあった活動に集中できます。これを仕事に置き換えると、次何をするかを口頭で指示を出すのではなく、工程表やスケジュール表などのチャートの形に落とし込むと理解させやすいです。また、上司からは口頭で注意をするのではなく、文字を絡めて分かりやすく提案し、ASDの人がそれに納得しやすい環境を作ってあげると良いでしょう。ASDの人に理解が得られにくいと思ったら別の方法を試すなど柔軟に対応すると、会社側とASDの人との信頼関係を築くことに役立ちます。

複数の仕事を同時に引き受けない

ASDの人にマルチタスクが向いていないということは前述の通りです。決まった手順をこなす仕事が得意という特徴があります。ゆえに、マルチタスクを一つ一つのシングルタスクに分けて対応できるような作業環境や時間の使い方を確立することが、本人の困難さを軽減するコツです。

複数の仕事を同時に引き受ける際も同じことです。同時並行的に仕事をするのが難しいのであれば、受け持つ仕事は一つずつ、同時に引き受けないように抑えることがポイントです。上司や会社側も、複数の仕事は同時にお願いしないといった理解を示すことが、お互いの関係を崩さない方法であるでしょう。

やるべき仕事が複数になり混乱しそうな時は、時間をとってタスク整理をしたり、周囲の人に相談して優先順位付けをしたりすると、落ち着いて対応することができます。手帳やスマートフォンを活用してToDoリストを作ったり、カレンダーやリマインダーを活用したりすることも、一つ一つの作業を順番にこなすためのポイントになるでしょう。

上司や人事と定期的に面談する機会を作る

ASDの人は、自分からの発信が苦手であり、自己主張や不安を自分のタイミングで相談することが苦手です。また、その日の体調の管理だけでなく、長いスパンでの調子の変化や自分のペースを掴むことも苦手です。

そこで、専門的な知識を持つ支援者や仕事の上司や人事と定期的に面談する機会を作ることで、自分の状態が把握できたり、仕事で何をすべきか、今後気を付けることは何かを確認したりできます。それはASDの人には安心感に繋がるでしょう。ここでの支援者とは、例えば就労移行支援事業所などの福祉のスタッフのことです。障害を持つ方の専門的な知識をお持ちなので、適切な面談を行ってもらえるでしょう。

定期面談は自分では気付かなかった体調が崩れる時のサインや癖、仕事における好不調の波を知るきっかけにもなります。今何をすべきか、何を求められているのかなど、ASD本人と会社が共有することも可能です。方向性や期待、理解などにズレが生じた場合にも、早い段階で軌道修正を行うことができるため、誤解やトラブルを最小限に留めておくことができます。ASD本人だけで判断したり、悩み続けたりするのではなく、早い段階で面談をして解決方法を探る機会を設ける事が、お互いにとって大切ではないでしょうか。仕事を順調に進めたいASDの人は、ぜひ定期面談を会社側に実施してもらいましょう。

ASD(自閉症スペクトラム)の人に向いてる職種

ASDの人の特徴は、集中力が高い、几帳面さがある、視覚情報に強いなどがあります。基本的には集中して正確に物事を遂行する対応が求められる業務が向いていると言われています。適職に共通するのは、静かな環境かつ、ひとりで作業できること、マニュアルや規則に沿って進められること、です。この章では、適職と思われる業務の中から数点に絞ってお仕事をご紹介します。

事務

事務のようなマルチタスクの仕事が伴う業務は一見ASDの方にとって、苦手に思えます。一方、事務は事務でも、ルールやマニュアルが整備されている事務は適任となります。ASDの人はタスクのはっきりした業務では力を発揮できます。口頭での対応が必要となる電話対応や仕事の重複がないような環境を用意されていればASDの方でも事務仕事は可能でしょう。特に専門の知識が必要な専門事務では、ASDの人の集中力があれば特に力を発揮しやすい職場になる可能性があります。ASDの方は特定のことに強い興味やこだわりを持つため、ご本人の好きなことが事務作業の中心になる事務であれば、能動的に仕事をするきっかけになるかもしれません。特定のことに高い記憶力を発揮する特徴もあり、専門的なことは向いている仕事になります。

ITエンジニア

一人で黙々と作業ができるITエンジニアやプログラマーといった業務はASDの方に向いていると言えます。なにか一つの物事に抜群の集中力を発揮できる特性から、ITのスペシャリストとして活躍するASDの方がいます。ITエンジニアはコミュニケーションをあまり必要としない職業です。この点でもASDの人は安心して仕事ができる条件であるでしょう。同様のことを何回も繰り返すような仕事は向いていると言えます。その点、コツコツと一人でコードを組み上げるITエンジニアはASDの人には有力な職業ではないでしょうか。ASDの人は例外や曖昧さを受けいれることが難しい特徴があります。規則性を伴うプログラミングにおいて、例外や曖昧さはありません。

アメリカのシリコンバレーのIT産業地域においては、ASDのエンジニアが多く働いています。天才と称される著名なプログラマーやエンジニアもASDの傾向があることを知っている方も多いでしょう。アメリカではASDであるアスペルガー症候群のことをシリコンバレー症候群と揶揄している程です。それほど、アメリカのIT界の前線ではASDの人が活躍をしているのです。

その他(人事、経理)

ASDの人の特性として、言葉の裏を読むことができない、曖昧な物事の判断へのハードルがあります。裏を返すと真面目で几帳面だと言い換えることができます。この几帳面を活かせる職業として人事や経理があります。細かいことをこつこつとこなし、こだわることが活きる業務です。細かい数字や管理を間違いなく集中しなければならない人事や経理の仕事はASDの人には得意なことでしょう。経理ではお金の計算はミスできません。少しのずれやミスで職場全体の業務の流れや運営に支障が出ます。経理には細かい目線で業務に取り組む姿勢が求められます。ASDの人は臨機応変に対処することは苦手ですが、決められたパターン通りに行うことは得意です。経理業務の細かいチェックを苦もなくとことん突き詰めていける強みを持つのがASDの人の特徴です。このような特徴から、ASDの特性が細かいチェックの必要な人事や経理の仕事に活きるのです。

ASD(自閉症スペクトラム)の人が障害者枠で転職を考える際は

ASDの人が障害者枠で転職するにはどうしたら良いでしょうか。この章では、転職する際の困りごとと、活用するべき転職エージェントについてご説明します。

ASDの人が転職する際のよくある困りごと

ASDの人が転職活動をする際、何につまずき、困るのでしょうか。理由は一つではありません。ASDの人の一つのことにのめり込むという特性は、専門性を高めるという意味で仕事でも活きるでしょう。しかし、自分の気持ちやしたいことを伝えるといったコミュニケーションが苦手という特性は、転職において面接などでデメリットです。やるべきことが決まっていれば能力を発揮できるということは、主体的に働くことが苦手ということでもあり、面接官にはその点も指摘されがちです。元々の仕事をなぜ辞めたのかという理由も、ASDの症状が理由でということであれば、繰り返す可能性を指摘されるでしょう。ASDは症状の強弱や知的障害、言語障害がある、なしによって一人ひとりに理解が必要な障害です。自分の特性と環境が合わずに悩みやストレスを抱えることもあるので、転職活動では職場がどのような環境にあるかを把握するように努めたほうが良いかもしれません。内容や環境が自分に合っているかを検討することは、長く安心して働くには大切です。

上記を踏まえ、転職を考えるのであれば、まずは当事者がどのような困りごとがあり、自分の特徴や状況を整理し、何ができるのかといった選択肢を考える事(自己分析)が重要です。自己分析をすることで、自分に向く職業や職場環境が見えてきます。自己理解をするには、自分史の作成や性格の分析、興味の整理、特性の分析、などを中心に行いましょう。

障害者雇用専門の転職エージェントの登録がおすすめ

転職エージェントとは、転職希望者と中途採用を行う企業をマッチングしてくれるサービスをする業者を言います。マッチングだけが仕事ではなくて、転職エージェントに登録をすると専任のアドバイザーが付き、求職の受付から転職全ての場面でのサポートがある場合がほとんどです。

障害者雇用専門の転職エージェントは、どの企業が障害者の雇用を募集しているかという求人情報を抱えています。企業情報の職種や業界は多岐に渡り、一般には非公開の求人情報を持っていることもあります。障害によっては障害配慮が必要です。企業の受け入れ体制と、転職者の要望を聞いた上で企業を紹介してもらえるため、ミスマッチが起こりにくいメリットがあります。

一般的に転職する場合は、企業毎に応募書類を送付する必要がありますが、障害者雇用専門の転職エージェントを利用する場合、初めに一度提出するだけで済みます。応募書類には履歴書や職務経歴書がありますが、これらの書類を添削してもらえる点も、転職エージェントを利用するメリットです。また、面接の日程や給与面、ポジションの交渉を代行してもらうこともできます。

まとめ

ASDの方は職場環境を整えることで力を発揮します。当事者は周囲に対して悩みや問題を抱えているかもしれません。上司や会社側がまず彼らの特性を鑑みてあげましょう。転職を試みたいというASDの方は、自己分析や望む環境などを整理しましょう。障害者雇用専門の転職エージェントの利用もおすすめです。