難聴でも働ける!障害とどう付き合い仕事を探す?

2022年12月29日

難聴を抱える方が、就職や転職活動、あるいは実際に働く場面においてさまざまな困難に直面するのは珍しいことではありません。そこで、本記事では、難聴を含む聴覚障害の特性から仕事上の悩みや対策、働きやすい仕事や就職・転職活動の進め方、仕事探しに役立つサービスまでを解説していきます。自身の就労や障害を持つ方へのサポートにお役立てください。

 

聴覚障害とは

音が聞こえなかったり、聞こえにくかったりする状態が継続することを聴覚障害といいます。ただし、一口に聴覚障害といっても、実のところその程度や聞こえにくさはさまざまです。全く聞こえない状態もあれば、補聴器をつければある程度聞き取れる軽度から中程度の難聴の方も少なくはありません。

ここでは、聴覚障害の種類について解説します。

 

難聴

難聴とは、聴力が残ってはいるが聞き取り辛い状態を指します。聞こえの程度が人により異なるのはもちろん、障害の原因になっている病変が生じている部位によって3種類に分けられます。

伝音性難聴は、外耳や中耳の異常により、音が内耳までうまく伝わらなくなる状態です。音を感じ取る内耳や神経、脳などに支障が無ければ、補聴器を使用して伝わる音量を調整することで聞こえやすくなったり、医学的治療で改善したりすることもあります。

 

感音性難聴は、内耳や聴神経、脳といった音を感じ取る器官の異常によりもたらされる難聴です。基本的に手術や薬では治せず、また、補聴器を使っても単純に音の歪みが増幅されるだけで、症状が改善しないケースも少なくありません。一般的な症状としては、高音域の音が聞き取り難かったり、複数の音を同時に聞いた時に聞き分けることが難しかったりします。老人性難聴やメニエール病、最近では若い方の間でも増えている突発性難聴やヘッドホン難聴なども含まれます。

混合性難聴は、外耳~中耳と内耳部分の両方に異常が生じている状態を指し、伝音性難聴と感音性難聴の両症状を呈します。老人性難聴の多くが該当し、人によってどちらの特徴が強く出るかは異なります。

中途失聴

中途失聴とは、音声言語の習得以降に聴力を失うことを言います。原因としては、病気や事故による怪我などが挙げられます。コミュニケーション手段には、手話ではなく言語が使われることが多いです。そのため、周囲から障害があることに気付かれにくく、現状では社会的な理解や支援が遅れています。

 

ろう

ろうとは、一般的には、生まれつきか幼少時に生じた障害により、音声言語の習得以前にすでに聴力を失っていることを指します。法制上の「ろう」とは、聴力が両耳とも100dB以上で聴覚障害2級に相当する状態を言い、手話を日常会話の第一言語とする方の多くが該当します。

 

難聴により考えられる仕事上の悩み

「聞く」という行為は、「話す」ことと並んでコミュニケーションに欠かせない動作の1つです。そのため、聞こえなかったり、聞こえにくかったりすることが、程度の差こそあれ仕事を続けていく上での何らかの支障となることは間違いありません。

そこで、ここでは難聴であることによって実際にどのような悩みを抱えることになるのかを2つの視点からまずご紹介し、続いてその対策方法について解説します。

 

会話での難しさ

聴覚障害があると相手の話が聞き取りにくくなるだけでなく、会話の中から自分が受け取った情報が間違っていないかを確認するのも簡単ではなくなります。特に会議のように多人数が同時に話をするシーンでは、誰が何を話したのか、どのように話が進んでいるのかなどが把握しづらく、話についていくこと自体が困難になりがちです。

加えて、何度も聞き返して会話をさえぎることに対するためらいが発生する他、単語の聞き分けに欠かせない技術である「読話」に専心するあまり、会話を理解するだけで疲弊してしまいかねないなど、さまざまな問題があります。

 

体調不良が起こりやすい

聴覚障害を抱える方にとり、冬は辛い時季であるかもしれません。突発性難聴やメニエール病など、ある種の感音性難聴は寒い時期になると悪化しやすいことが分かっています。これは、寒さにより血管が収縮することで生じる内耳における血流の悪化が原因であるとする説が有力です。内耳は平衡感覚をつかさどる器官なので、目まいや耳鳴り、吐き気といった身体的な不調を起こすのは珍しいことではありません。さらに、過労や睡眠不足、ストレス過多などが、これらの難聴を誘発する原因となることも明らかになっています。

季節の変わり目や天気がよくない時にも、難聴が悪化しやすいことはよく知られています。日々の気温差が大きかったり、急激な気圧変化があったりした際に自律神経のバランスが崩されるのは、健常者でも珍しいことではありません。この時、もともと聴覚障害のある方の場合には、耳に異常が出やすくなると考えられています。自律神経の乱れは、心臓に過度の負担をかけたり、血圧を上げ過ぎたりなど、広く身体の各所におけるさまざまな不調をもたらしかねません。

 

悩みへの対策方法

職場で仕事をしていく上で、聴覚障害のある方はさまざまな工夫や対策をしながら取り組んでいます。対策方法の一例は以下の通りです。

 

・筆談の道具を常に持ち歩く

・会話の中で小まめに復唱して確認し、齟齬がないようにする

・会議の時にはキーマンの近くに着席する(キーマンに向かって皆が話すため聞き分けやすくなる)

・UDトークやチャット、バックログなどのアプリやツールを使う

 

 

ここまで挙げたのは、悩みへの対策として自分でできる方法です。しかしそれだけで十分とは限らないので、周囲の配慮やサポートを求める必要があるかもしれません。具体的には、次の2つのポイントを押さえておくとよいでしょう。

聴覚障害といっても、人によってさまざまな障害のパターンがあり、対処法が異なります。音の聞こえにくさにも違いがあるので、理解していないとコミュニケーションが取りにくいでしょう。コミュニケーション方法も、手話や補聴器を用いた言語でのやり取りなどとさまざまです。そこで、自身がどの手段を使ってどのような形でコミュニケーションを取っていきたいのかにつき、できれば想定される場面ごとに分けて説明して了承を得ておくことをおすすめします。

また、聴覚障害を持っている事実を周囲に伝え、自らが必要とする配慮についての理解を得ようとする姿勢も大切です。自身の意図するところを正確に伝えられれば、雑音や音の反響が少ない席で仕事をさせてもらう、情報を文字で読めるようにしてもらうなど、快適に仕事ができる就業環境を整えてもらいやすくなるでしょう。加えて、天候や気圧によって体調不良になる聴覚障害の方はあらかじめその旨を上司や同僚に伝えておくと、休憩や欠勤への理解を示してもらえるケースもあります。

 

難聴の方が働きやすい仕事

自力での努力である程度工夫できるとしても、無理なく働ける業界や職種の方が働きやすいのは事実です。それでは、難聴の方が働きやすいのはどのような仕事でしょうか。おすすめの業界や職種を紹介しますので、参考にしてみてください。

 

おすすめの業界

医療・福祉関係の業界は、業界の性格上、障害への理解や配慮を得やすく、サポートも期待できるでしょう。パソコンと向き合っての作業が中心となるIT・通信・インターネット系の業界では、連絡などもチャットやメール、バックログといったツールを活用できるので、聞こえづらさがハンデになりにくい傾向があります。

また、小売・流通・商社系でも、職場によっては満足して働ける場合が多いようです。客層によりますが、ゆっくりと丁寧に話せる環境だと難聴でも対応しやすく、店舗や店頭であれば電話応対の必要性が低いため、音の聞き取りや会話が苦手な方でも働けます。

 

おすすめの職種

聴覚障害の方におすすめの職種として、事務職が挙げられます。事務職というと電話対応のイメージが強いかもしれませんが、実際は電話応対以外にも入力作業やファイリング作業などが多い職種です。聴力に障害があるのは、逆に考えると聴覚によって集中を妨げられることがないともとらえられ、高い集中力を必要とする入力作業に適しています。

また、在庫管理やメール便の管理といった軽作業系の職種は、聴覚よりも視覚が重要な場合が多いため、聴覚障害のある方でも活躍できる可能性があるでしょう。PCやプログラミングなどIT系のスキルのある方であれば、ITエンジニア系の職種もおすすめです。高い水準の技術を身に付けて高収入を目指すことも不可能ではありません。

 

難聴の方の就職・転職活動

難聴の方は、どのように就職・転職活動を進めれば良いのでしょうか。ここでは、難聴のハンデを持つ方が就職・転職で失敗しないためのコツを紹介します。

 

就職・転職のコツ

採用には通常、一般採用枠と障害者採用枠があります。障害者採用は障害者手帳を持っている方しか受けられないので、積極的に応募してみましょう。障害者採用枠を設けている会社であれば、過去に障害を持った方が採用された実例を持っている場合がほとんどです。そうした実例は障害に対する理解や配慮、サポートを判断する上で参考になります。

ただし、長く働きやすい会社かどうかは、障害者採用枠の有無ではなく、「聴覚障害に対する理解がある職場」か否かで見極めることが大切です。後でも詳述しますが、丁寧に質問に応じてくれたり、音声認識アプリなどの活用に理解があったりする職場をおすすめします。

また、障害があることを周囲に明らかにしない「クローズ就労」という方法もありますが、配慮やサポートが得られないのがデメリットです。難聴の程度や職種によっては自己努力でカバーしながら働けますが、適切な配慮やサポートが得られないために無理が生じてしまうケースもあるでしょう。ハンデを持つ方が無理をすると、健常者以上に心身にかかる負担が大きくなる場合もあるため、障害を明示して就業できるオープン就労の方が安心かもしれません。

 

働きやすい仕事を選ぶ

職種や業界の特性上、どうしても相性が悪くて働き続けるには難しい仕事も存在します。例えば、建設・土木業界の仕事は残業も多く、屋外での作業では聴覚障害が事故のリスクを高めてしまうこともあるのです。また、指示の聞き逃しもケガや事故につながります。金融・保険業界もあまり適していません。なぜなら、サービスを細かく説明する必要がある上に、コミュニケーションを取る機会が多く、うまくできないジレンマでストレスを感じることが増えると予想されるからです。

これらの仕事よりも、聴覚障害の特性を逆に強みとして生かせる仕事を選ぶ、という考え方を持ちましょう。聞こえなかったり聞こえにくかったりという特性は、聴覚からのノイズで集中が妨げられるきっかけがないので、集中力の高さにつながります。また、自分自身が情報を得にくい状況にあることから、正しい情報を得ようとする努力や意識が高まり、同時に相手の視点に立って考える・伝えるという姿勢も生まれるのです。そのため、相手との丁寧なやりとりが評価されるコンサルティング系の仕事や熟慮型の相談業務などが向いています。

 

就職先の障害への配慮・取り組みを確認する

就職先の障害への配慮・取り組みを確認できるチャンスがあるなら、実際に働く前に詳細をチェックしましょう。事前に職場の見学ができる場合は、企業内で実際に提供されている障害への配慮や社内設備を実際に見られるため、働きやすい職場探しに役立ちます。職場を見学するだけでなく、面接の場で障害を伝えることも、障害配慮の取り組みを確認する上で効果的です。その際は、「補聴器があれば日常会話には困らない」「ゆっくりはっきり話してもらえればおおむね理解できる」など、障害の程度について具体的に伝えましょう。

また、ツールを活用したい場合には、「筆談用のボードを使いたい」「筆談のためにメモとペンを使いたい」「会議などの場面では音声認識アプリを使いたい」などのように、何のためにどのツールが必要になるのかを具体的に伝えてください。職場で一緒に仕事をする方々との情報共有の仕方まで求人情報で明確にしているケースは少ないので、職場の実情を確認したり、要望について伝えたりする工夫も必要です。こうした要望や確認に対する反応から分かることも多いでしょう。

 

仕事探しに役立つサービス

難聴でも働きやすい仕事探しは、一人で進めるのではなく、相談や履歴書などの書き方の指導、面接対策や求人の紹介、終業後の相談などに対応してくれるサービスの支援の活用がおすすめです。ここでは支援サービスの一例を紹介します。

 

ハローワーク

ハローワークには障害がある方の就労相談に特化した職員や指導員が配置された専門援助部門があり、求人の紹介から就業後のサポートまでが一気一貫で行われます。また、ハローワーク主催の障害者雇用のための合同面接会に参加したり、必要に応じて面接同行などの支援を頼んたりすることも可能です。自分に合った援助者(ジョブコーチ)を見つけられれば、就業後においても必要な配慮を企業に伝える際の仲介役をお願いできるなど、利用の仕方次第ではさまざまなサポートが期待できるでしょう。

さらに、ハローワークを経由しての就業だと、トライアル雇用もあります。障害のある方を原則3ヶ月試用することで採用ミスマッチを防ぎつつ、試用期間終了後の常用雇用に移行しやすくするための制度です。

 

障害者向け就職・転職エージェント

ハローワークは国の機関ですが、民間の企業で障害のある方の就職を支援する、障害者向け就職・転職エージェントも利用できます。氏名・年齢・住所・連絡先といった個人情報や、職歴、志望、障害の内容といった情報を登録しましょう。登録後、エージェントの担当者と仕事に関する希望や障害の状態・程度について面談を行い、その結果に基づいて求人の紹介をしてくれます。なお、エージェントの利用に関して、料金は一切かかりません。

エージェントでは、ハローワークなどには公開されていない非公開の求人情報をもっているケースが少なくありません。そのため、自分で調べるだけでは見つからない企業の、場合によっては好条件の情報を見つけられる可能性があります。また、採用や就職・転職全般に関して豊富なノウハウの蓄積があるエージェントから客観的な見解を得られるので、応募すべき企業や取り組み方の修正点が分かるのも大きなメリットと言えるでしょう。

障害者向け就職・転職エージェントといっても、働く準備ができている方だけに向いているサービスではありません。中途失聴や難聴のために聴覚障害者としての社会人経験が少なく、自分に必要な合理的配慮が分からないという方向けに、就労移行支援サービスを提供しているエージェントもあります。こうした就労移行支援のサービスを利用すれば、働くためのマインドの醸成を緩やかに図りながら、自分に合ったペースで仕事を探すこともできるでしょう。

 

まとめ

自身が抱える障害特性もあり、難聴の方が長く安定して働ける職場や働きやすい業種・職種の選択が難しいと感じられるケースは決して少なくはないでしょう。また、難聴に限らず聴覚障害といっても症状や程度はさまざまであり、対処方法を一言で表すのは簡単なことではありません。そのため、難聴を抱えつつ働こうとする方は、自分自身でできることの把握や必要な配慮の周知など、就活や就労後のさまざまな場面でいろいろな対策を取りながら働いていかなければならないことはよく認識しておく必要があります。

一方で、これから就職・転職するという方は、障害の特性を逆に強みに変えたり、カバーしやすい仕事を選んだりするなどの工夫をすることも大切です。そして、無理せず働き続けられる就職・転職の実現に向けては、多くの場合、一人で取り組むのは得策ではありません。ハローワークなどの専門的な支援機関で助言を得たり、非公開の求人情報を持つ専門のサービスを利用したりしながら、多少時間がかかったとしても、自分に合った働き方ができる職場を探していくのがおすすめです。