発達障害グレーゾーンにおすすめの仕事は?仕事選びのコツもご紹介

発達障害に関連して「グレーゾーン」という言葉を耳にする機会が増えてきました。発達障害に対しては社会的に支援体制や理解が進んできています。しかし、グレーゾーンの方は発達障害者と同じような生きづらさを抱えながらも、確定診断を得るのに至りません。そのため支援の網から漏れて、グレーゾーンに特有の困難を一人で抱えている状態です。この記事では発達障害とグレーゾーンの関係、当事者が抱える仕事上の問題点、グレーゾーンに向いている仕事の選び方などを解説します。

発達障害グレーゾーン

まず、発達障害やグレーゾーンについて解説します。どのような状態がグレーゾーンに該当するか、発達障害に対する知識を深めましょう。

グレーゾーンとは何か

グレーゾーンとは正式な病名や診断名ではなく、「発達障害の傾向があることを示す俗称に過ぎない」という点に注意しなければなりません。発達障害の診断を下せるのは精神科や心療内科などの専門機関ですが、発達障害に相当する症状が見られても確定診断に至らない場合があります。似た症状を持つ他疾患との誤診を防ぐために、複数の診断基準を満たす必要があるためです。このような確定診断できていない状態が俗称として「グレーゾーン」と呼ばれています。

しかし、確定診断されないとしても症状が軽いとは限りません。日常生活に支障をきたすほど強く症状が出ていても、確定診断を下すために必要な情報が当事者や家族から十分に得られない場合もあるためです。そのほかにも受診日の体調に左右されたり、医師によって判断が分かれたりするケースもあります。場合によっては再受診やセカンドオピニオンの実施が必要になるかもしれません。

発達障害の分類

発達障害とは、先天性の脳機能障害の影響で発達に偏りがあり環境への順応が難しい状態です。発達障害は大きく分けて、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、学習障害(LD)の3種類があります。

・自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症は自閉症スペクトラム障害やASDなどとも呼ばれています。2013年に発表されたアメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」で発表されて以来の比較的新しい診断名です。DSM-5以前には自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害などに分類されていましたが、現在はいずれも自閉スペクトラム症に含められています。

自閉スペクトラム症の大きな特徴としてコミュニケーション障害が挙げられます。例えば、他者とコミュニケーションや関係の構築が上手くいかない状態です。自閉スペクトラム症の方は多くの場合、他者の表情や気分を上手く読み取れません。そのため、「会話に加わるタイミングをつかめない」「不用意に人を傷つける」「その場に相応しくない言動を取る」などの行動を取りやすくなります。コミュニケーション障害に起因する各種行動によって、対人関係の維持や発展が難しい傾向にあります。

さらに、行動・関心・動作のパターンが限定的で、特定の事柄に強く固執する点も特徴的です。自閉スペクトラム症の方は、生活のなかに食べ物・部屋の模様替え・衣服などの新しいものが入り込むことを嫌う傾向があります。また、特定の対象に狭く集中した関心を示して、執着することも珍しくありません。そのため、予定外の出来事への臨機応変な対応が困難です。

自閉スペクトラム症は一定の幅のある疾患群と捉えられていて、症状の種類や重さはさまざまです。人によって強く出る特徴が異なるため、グレーゾーンになる確率が高い発達障害に含まれます。コミュニケーションが拙くても子どもならではの未熟さと見過ごされて、思春期を過ぎてからようやく診断されるケースもあります。

・注意欠如多動症(ADHD)

注意欠如・多動症は「注意欠陥/多動性障害」「ADHD」などとも呼ばれる障害です。注意力が乏しい、あるいは注意の持続時間が短く、必要な課題をやりとげられないなどの症状が現れている状態です。

また、年齢不相応の過剰な活動性や衝動性のため機能や発達が妨げられている状態も該当します。症状はどちらかだけとは限らず、両方に該当する状態も含まれます。後者の状態を多動性と呼びますが、この状態は注意欠如と衝動性が身体面にまでおよんだものです。ADHDには以下の3つの病型があり、いずれかの型の症状が優勢であったり、複数の型の症状が同程度に目立ったりします。

タイプ 症状
不注意型 気が散りやすく、注意が持続せず、目の前の作業に継続的に取り組めない。物を紛失したり忘れたりといった症状が現れる。
多動・衝動型 多動性では無意識のうちに体が動く、常に体を動かしていないといられないなどの症状がある。学校などでは、授業中に立ち歩き、私語を止められない。集団行動のなかで落ち着きのなさが目立つといった状態が挙げられる。

衝動性は、その場で思いついた行動をすぐ取ってしまうといった症状が現れる。学校や職場で人の話を最後まで聞かずに答えてしまう、順番待ちができずに割り込んでしまう場合がある。

混合型 不注意型と多動・衝動型の両方の特徴が同じ程度で現れる。

 

ADHDの症状には軽症から重症まで幅があり、家庭や学校など特定の環境下で際立ったり問題になったりします。特に、学校のような制約を科せられる集団生活の場面では問題になりやすく、日常生活に支障が出るケースも少なくありません。「頻繁に忘れ物をする」「人の話をさえぎって一方的に話し続ける」「順番を待てずに割り込む」などのような行動が顕著です。こうした行動は叱責や非難の対象となりやすく、青年期までにうつ病や不安症を併発する場合もあります。

知的発達に問題がないにもかかわらず、計算や読み書きなどが難しい状態を学習障害または限局性学習症(LD)と呼んでいます。よくある学習障害は以下の3つのタイプです。

・読字障害…正確に読んだりスムーズに読んだりすることが難しい

・書字障害…正確に書けなかったり、書写に極端に時間がかかったりする

・算数障害…数字や数式の理解に問題がある

学習障害ではすべてのタイプを兼ね備えるよりも、特定のタイプのみ困難であるパターンが多くみられます。例として、算数の理解や習得が著しく困難であるにもかかわらず、読字・書字やそのほかの学習には全く問題ない場合があります。そのため障害ではなく単に個人差として苦手なだけとみなされて、学習障害に気づかれない場合も珍しくありません。

なお、視覚障害などほかの障害によってこれらの障害が生じている場合は学習障害とはみなされません。学習障害は注意欠如・多動症と類似の症状を示したり、併発したりする場合もあります。

グレーゾーンの困難さ

グレーゾーンだと医師からは、「発達障害の傾向はありますが、診断基準は満たしていません」というように伝えられるケースもあるようです。しかし、確定診断に至らずとも傾向はあり、度合いによっては日常生活に支障が出ている場合も珍しくありません。支障が出ている状態にもかかわらず「診断はない」という微妙な位置のため、グレーゾーンに特有の困難さが生じます。グレーゾーンの場合に生じる生活上の困難な点について、以下で詳しく解説します。

確定診断が無く必要な支援が得られない

確定診断がなくとも、グレーゾーンの当事者の生活に困難が生じている事実は変わりません。確定診断がないことは症状の軽さを意味するわけではなく、確定診断されている方と同程度の支援が必要な場合もあります。この場合は治療や就職支援のようなサポートが必要です。

しかし、各種支援に対応できる発達障害支援施設の多くは、利用のために医師の診断書もしくは障害者手帳を持っていることが前提になっています。そして、グレーゾーンの場合は診断書も、診断書が前提となる障害者手帳もありません。そのため、支援が必要なのに十分に受けられない状態に陥ります。

ただ、各地の自治体などが設置している発達障害相談センターでは、グレーゾーンを含めた発達障害全般に関する相談にも対応しています。また、公的機関によってはグレーゾーンも支援対象として対応してもらえる場合もあります。まずは自治体の窓口に問い合わせてみましょう。

二次障害の可能性

グレーゾーンのもう一つの問題は、二次障害に陥る恐れがあることです。症状があり日常生活に支障をきたしていたとしても、確定診断がなければ、周囲や家族は「単なる甘えや怠け」と扱うでしょう。グレーゾーンという微妙な状態を周囲が理解するとは限らず、理解を期待できるとも限りません。配慮すべき事情がないという状況ならば、周囲と同じように結果を出すことが要求されるでしょう。結果が出なければ本人の努力不足とみなされるケースも考えられます。

しかし、確定診断に至らなくても症状が軽いわけではありません。発達障害と同じように、本人の努力の問題ではない場合がありえます。先天的な脳の機能障害が原因であれば、周囲から「もっと努力を」と言われても本人にはさらに多くのストレスがかかるばかりです。そのままの状態で放置していると、自己肯定感が損ねられたり鬱病や不安症といった精神病に追い込まれたりするでしょう。

グレーゾーンによる仕事上の問題点

グレーゾーンは診断がないとはいえ、症状という点では発達障害と同様の困難を抱えています。自閉スペクトラム症の傾向がある場合、主として職場での人間関係に悩むでしょう。なかには同じミスの繰り返しや突然の変化に対応できないなど、業務そのものに支障が出ていて悩んでいる方も見られます。

注意欠陥・多動症(ADHD)の傾向がある方は不注意型と多動・衝動型のそれぞれで異なる困難が生じます。不注意型に近い場合、ミスが多い・遅刻が目立つ・期限を守れないなどの症状がメインです。多動・衝動型に近い場合は落ち着きがない・あれこれ気になって集中できないなどの点で周囲を困惑させるかもしれません。

特に注意欠陥・多動症(ADHD)の傾向がある場合、発達するにつれて目立つ症状が遷移していく場合もあります。子どもの頃は多動性が目立つものの大人になるにつれ多動性が目立たなくなり、相対的に不注意による症状が目立ちやすくなる、などの例が挙げられます。

学習障害(限局性学習症・LD)の傾向がある場合、「作業の指示が理解できない」「仕事の飲み込みが遅い」などの症状が見られます。漢字が書けない・計算ができないなどの症状はパソコンや電卓などのツールの活用でカバーできる部分も多く、ある程度の業務はこなせるケースもあるでしょう。しかし、すべての業務をカバーしきれるとは限りません。カバーしきれない業務が生じると「仕事ができない人」という周囲からの評価に直面する可能性があります。

グレーゾーンの仕事選び

グレーゾーンの当事者が確定診断を受けている方のように支援を求めることは困難です。障害者雇用や就業時に障害を提示するオープン就労はなかなか目指せないため、障害に理解と支援を得ながらの勤務は難しいかもしれません。しかし、オープン就労ができない場合は障害を明らかにしないクローズ就労を選び、不得意なことを自らの努力でカバーしつつ働く必要があります。クローズ就労の場合はどのように仕事を選べば良いのでしょうか。

得意なことを生かす

発達障害の傾向がある場合、その特性のすべてが仕事上マイナスに働くとは限りません。

自閉スペクトラム症(ASD)の傾向がある場合の特性として、関心や興味を持った事柄であれば集中力を持続して意欲的に取り組みを継続できます。この特性は、正確性が求められたりルールやマニュアルに厳密に従うことが求められたりする仕事に適任でしょう。

注意欠陥・多動症(ADHD)の傾向がある場合、興味関心のある分野であれば集中力を保ちやすいとされています。また、アイデアが豊富で好奇心旺盛という特徴も生かせるかもしれません。そのほか、多動性も行動力として捉えれば職種によっては役立つ場面もあります。

これらの特性を踏まえて、本人が関心を持てる分野かつ裁量労働制・フレックス勤務・フリーランスなど自由な形で働ける職場の選択もポイントです。

学習障害(限局性学習症・LD)の傾向がある場合、まずどの分野が苦手であるかを把握しましょう。人によって能力に偏りがあるため、得意分野として生かせる特性の断定は本人の分析なしに行えません。

不得意なことをカバーする

得意分野をより生かすために必要なポイントは、不得意な事柄をカバーするための手段や方法を工夫したり、回避を試みたりすることです。特に、障害の特性が致命的な問題になる職業は避けましょう。また、発達障害や特性に対する理解がなく障害のある当事者を追い込むような職場は、グレーゾーンの方に不向きです。仕事選びの過程では判断しづらい内容ですが、可能な限り情報を集めましょう。

クローズ就労において障害の傾向をカバーする基本的な手段・工夫として、傾向があると指摘された障害の特性に応じた対策を意識することが挙げられます。自閉スペクトラム症(ASD)の傾向のある場合、興味がわかない分野に対しては集中力をなかなか保ち続けられません。また、対人的なコミュニケーションにも困難が生じます。そのため、高いコミュニケーション能力やマルチタスクが求められる職業は避けるべきでしょう。主に一般事務・テレフォンオペレーター・営業職・接客業などが該当します。

注意欠陥・多動症(ADHD)の傾向がある場合、不注意という特性が問題になります。わずかなミスでも人命にかかわるようなパイロットや医師などは避けてください。不用意な発言をする傾向がある場合は、対人的な業務が多い営業職や接客業も向きません。マルチタスクを苦手とする方も多いため、一般事務も不向きです。

それぞれの障害に向いている職種

発達障害のなかでも、自閉スペクトラム症(ASD)は定型性が高い業務に対して優れた適性を示しやすい傾向にあります。ルーティンワークをコツコツ進められる仕事が向いているでしょう。変化が少なく下流工程の業務にあたる職業を選んでみてください。ただ、定型業務や下流工程は給与が低く設定されている点に注意が必要です。

定型的という意味では、自閉スペクトラム症(ASD)はルールやマニュアルが確立していれば決まり通りに進められる点が強みです。具体的な職業の例は以下です。

・経理

・財務

・法務

・情報管理

・コールセンター

・テクニカルサポート

また、対人的な部分に左右されるリスクが少なく、数字・論理や豊富な知識で対応できる職業も向いています。具体的には以下のような職業です。

・プログラマー

・テスター

・ネットワークエンジニア

・校正

・校閲

・電化製品などの販売員

特に、IT分野でも下流工程に属するプログラマーやテスター、豊富な製品知識が接客に生きる電化製品などの販売に適性を見出す方もいるようです。

注意欠陥・多動症(ADHD)の傾向がある場合、ADHDの特性を肯定的に考えると適性が見えてきます。「じっとしていられない」という多動性は「色々なところに興味を引かれて、変化に敏感」とも考えられます。また、「考えずに行動する」という衝動性は「行動力がある」とも解釈可能です。これらの点から適している職業を考えると、以下の例が挙げられます。

・営業

・販売職

・デザイナー

・広告やゲームなどのプランナー

ただし、その場において不適当な発言をする傾向がある場合、対人的な営業や販売は難しくなります。

学習障害(限局性学習症・LD)の場合、行動の特性よりもどの能力に困難があるかでできること・できないことが変わります。向いている仕事の例として挙げられるものはデザイナーやカメラマンです。作業や表現の過程で読み書きや計算などを強く求められることのない職業であれば、問題が表出することは少ないでしょう。また、書字や計算が苦手であれば、PCを活用してメモや計算を行うなど、各分野をカバーできる工夫をすることで事務職で働いている方もいます。

まとめ

発達障害は一定の幅を持った障害です。そのため症状や傾向が現れていたり生活に支障が出たりしていても、「診断基準を満たさない」として医療機関から確定診断を得られない場合があります。この状態を俗称として「グレーゾーン」と呼びます。確定診断がなくとも症状が軽いというわけではありません。

確定診断が出ていなくても当事者の生活に困難が生じている場合、治療や就職支援などのサポートが必要です。多くの支援制度は確定診断がないと受けられませんが、なかにはグレーゾーンであっても相談や支援に応じる施設や機関も存在します。まずは自治体に相談してみましょう。二次障害として精神疾患を発病させないために、早めのサポート・対策が大切です。

グレーゾーンの方は障害者雇用や就業時に障害を提示するオープン就労ができず、障害を明らかにしないまま就労するクローズ就労を選ばざるを得ません。オープン就労できない場合は「障害の特性がプラスになる仕事を選ぶ」「致命的に問題になるような職業を避ける」「障害の特性をカバーする方法を考える」などの工夫を行いましょう。各企業の発達障害に対する理解度も判断が必要です。容易に判断できるとは限りませんが、極力慎重に見極めて適している仕事を選んでください。