障害者雇用で短時間は可能?納付・給付制度から自分に合った働き方を選ぼう

2023年1月11日

障害を持つ方の就労における不安のひとつとして、フルタイムでの勤務が難しい点が挙げられます。一般雇用ではパートやアルバイトをはじめ、フルタイムではない働き方も浸透していますが、障害者雇用においても短時間勤務は可能なのでしょうか。

この記事では給付制度などを含めた障害者雇用の働き方について詳しく解説し、人それぞれのライフスタイルに即した働き方をご紹介します。

 

障害者雇用で時短勤務はできるの?

障害者雇用の時短勤務について解説する前に、障害者雇用全般を規定する法律について解説しておきましょう。

障害者雇用は「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下、障害者雇用促進法)という法律によって、障害者雇用として認められるための一定の基準が設けられています。

障害者雇用促進法では、従業員数が一定以上の企業の場合、「法定雇用率」に応じた数以上の障害者雇用する義務があります。例えば「従業員数が◯人以上の場合は障害者を◯人以上雇用する」という形になるのですが、算定対象となる障害者数のカウント方法には特例もあります。障害は人によってそれぞれ程度の差があり、同じ診断名がついていたとしても生活の困難さは異なるため、障害者手帳の等級が一つの判断材料となります。この障害者手帳に記載された障害の程度が重度の方は、1人のところを2人分とカウントする特例が存在するのです。

また就業時間によってもカウント方法は左右されます。かつては週30時間以下の短時間勤務では法定雇用率に加算されず、短時間勤務を希望している障害者にとっては働きづらい環境にありました。

ところが障害者雇用促進法の改正によって、週20時間以上30時間未満の短時間勤務においても、1人につき0.5人扱いで法定雇用に加算できるという変更が加えられ、障害者雇用の働き方が多様化したのです。

 

精神障害者の短時間労働者に適用される特例措置も存在する

日本における障害の区分は、身体障害・知的障害・精神障害の3つに分けられますが、このうち精神障害者の短時間労働に対して適用される特例が存在します。

 

精神障害者を1人と換算する条件

先ほども触れた通り、週20時間以上30時間未満の短時間労働者に関しては、通常1人を0.5人分として数えます。ただし2023年3月31日までに短時間での就労が決定した精神障害者に関しては、法定雇用率のカウントを通常通り1人分としてカウントする特例が定められているのです。

この背景には、2018年の障害者雇用促進法において精神障害者が新たに雇用義務の対象となったことがあります。それまでは身体障害者と知的障害者のみが法定雇用率のカウント対象となっており、精神障害者はその対象ではありませんでした。しかし精神障害者自体の増加やそれに伴う雇用増加などを踏まえ、法改正によって対象に含まれることになったのです。

 

対象外となるケース

精神障害を持っている短時間労働者であれば、必ずしも特例の対象となるわけではないことに注意が必要です。以下の条件に該当する精神障害を持つ求職者は対象外となります。

・精神障害者が退職し、その退職後3年以内に、退職元の事業主と同じ事業主(子会社特例などを受けている場合は、共に特例を受けている他の事業主を含む)に再雇用された場合

 

障害者雇用の一般的な勤務時間について

現在の日本における障害者雇用制度では、一般的にどの程度の勤務時間で募集をかけているのでしょうか。障害者雇用の求人で多く見られる勤務時間を確認してみましょう。

 

20~30時間程度の勤務が多い

先ほども触れたように、2010年の障害者雇用促進法の改正により、短時間労働者の法定雇用率加算が認められました。このことにより、週20時間以上30時間未満という勤務時間における企業の人材募集も増加し、短時間労働を選択肢に入れたより多様な働き方が選べるようになったのです。

障害を持つ方の中には「勤務時間の配慮は必要ない」「一般雇用と同程度かフルタイムでも大丈夫」という方もいる一方、障害の特性によっては疲れやすく、短時間でなければ難しい方も少なくありません。そのため、長時間の勤務が難しい方は、短時間勤務を実施している企業の求人に応募してみることをおすすめします。

 

20時間未満の時短勤務ができるケースも

また一般的な短時間勤務の条件よりもさらに短い、週に20時間未満というごく短時間の勤務条件で募集をかけている企業もあります。計算すると週5日勤務の場合1日4時間程度の勤務時間となりますから、パート・アルバイトに近い働き方が可能です。

ただし週20時間未満の働き方では法定雇用率のカウント対象とならないため、法定雇用率の遵守を考えている企業で積極的に募集をかけるケースは少ないでしょう。したがって20~30時間未満の短時間勤務の条件よりも、求人数が限られてくる傾向にあります。

大手企業の例を挙げると、ソフトバンクでは2016年から「ショートタイムワーク制度」という取り組みを導入しています。この制度は仕事は問題なくこなせるにもかかわらず、障害などの理由により長時間勤務が難しい方が、週20時間未満で就業できる制度です。

日本における典型的な働き方においては、一人が幅広い分野の業務を任されるため、勤務時間が長くなる傾向があります。上記制度はその点に着目した、短時間勤務よりもさらに時短となる勤務がしやすい制度が充実すれば、これまで働くことを断念していた求職者にとって大きなチャンスとなるのではないかという発想なのです。

このような時短勤務の働き方も、まだまだ数は少ないものの徐々に日本国内でも浸透しつつあるようです。

 

障害者雇用納付金制度は対象事業者が拡大傾向

ここまでは主に求職者側のメリットをお伝えしてきましたが、企業側の法定雇用率の遵守にはどのようなメリットがあるのでしょうか。鍵を握るのは障害者雇用納付金制度です。

 

制度の概要

障害者雇用納付金制度とは、企業が法定雇用率以上の障害者雇用を達成した場合や、障害者雇用が経済的に困難であると判断された場合に、給付金が助成されるという制度です。この給付金は、法定雇用率を達成していない企業から徴収された納付金が財源になっています。

障害者雇用にあたっては、必要となる設備やシステム構築といった準備費用の出費が想定されます。しかし障害者雇用を行っていない企業はこれらの費用捻出が必要ないことから、障害者雇用を行っている企業とそうでない企業の間で支出のアンバランスが発生してしまいます。つまりこういった障害者雇用における経済的格差を是正するとともに、障害者雇用の推進を目指して納付金・助成金の制度が運用されているというわけです。

ちなみに、障害者雇用納付金制度による納付はすべての企業が対象となるわけではなく「常時雇用している労働者数が100人を超える事業主」が法定雇用率を達成できなかった場合に限り、不足する障害者の数に応じて1人につき5万円を納付する仕組みです。

中小企業向けの措置も

厚生労働省のデータによると、現状では障害者雇用義務の対象となる企業のうち、特に中小企業においては法定雇用率の達成が難しいという傾向がみられます。この要因としては、法改正によって法定雇用率の割合が引き上げられたことにより、新たに障害者雇用が必要となった企業であることや、割ける費用や人材育成の時間的余裕がない、といった理由が挙げられます。

こうした中小企業における障害者雇用を推進させるために、中小企業を対象とした助成金の給付や、助成金を増額するといった措置も取られています。

例えば障害者雇用対策に利用できる助成金のひとつとして「特定求職者雇用開発助成金」というものがあります。これはハローワークなどの行政機関から紹介を受けて障害者を雇用した事業主に対して支払われる助成金です。そのうち「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」という、発達障害や難治性疾患を持つ障害者を雇用した際に支払われる助成金では、通常1人につき50万円という支給額であるのに対し、中小企業では1人につき120万円が支払われるという優遇措置が設けられているのです。

なお「中小企業」の定義としては厚生労働省が発表する「各雇用関係助成金に共通の要件等」に記載されている以下の内容を原則としており、業種によって要件が異なります。

 

産業分類 資本金の額・出資の総額 常時雇用する労働者の数
小売業

(飲食店を含む)

5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

 

短時間障害者雇用に適用される特例給付金制度とは?

また2020年の障害者雇用促進法改正により、短時間雇用で働く障害者に対する特例給付金制度の新設も、多様な働き方を推進する障害者雇用の追い風になっています。

勤務時間の項目でも解説しましたが、勤務時間が週20時間未満の障害者は現状では法定雇用率に加算できません。特例給付金制度は、そのような条件下でも短時間勤務を希望している障害者の就労機会を確保するために、短時間労働者を雇用した企業に対して給付金が支払われる制度です。

支給対象となるのは週10時間以上20時間未満の障害者の雇用を実施している事業主で、常用労働者数が100人を超える事業主に対しては1人あたり月5,000円、100人未満の事業主に対しては月7,000円が支払われます。

この制度に該当する障害者の条件は、いずれかの障害者手帳を取得しており、1年以上の雇用実績もしくはその見込みがある、という2点となっています。

 

障害者トライアルコースと障害者短時間トライアルコースの違い

助成金のうち、障害者トライアル雇用には「障害者短時間トライアルコース」というものがあります。この制度は、その名の通り短時間での雇用を希望している障害者を対象とした制度ですが、「障害者トライアルコース」とどのような点が異なるのか、違いをご説明します。

 

障害者トライアル雇用とは

障害者トライアル雇用とは働いた経験がない、または事情があって就職期間のブランクがあるなどの理由により就職に不安を持つ障害者に対して、企業が試用期間を設けて雇用することができる制度です。試用期間を経て企業と障害者本人との間に合意がなされた場合、正式にその企業へ就職することができます。

この制度は求職する障害者本人だけでなく、障害者を雇用する企業側にとっても「働くにあたってどのような配慮や環境が必要なのか」という疑問を正規雇用前に解消し、具体的な対応をイメージできるため、お互いにとってメリットのあるマッチングが期待できます。

また制度を利用する障害者にとっても、事前に職場の環境や担当業務の内容、上司や同僚を把握できるメリットがあります。自分にとって必要な配慮は何か、この業務が自分に適しているのか、といった点を把握できるため、正規就職へ向けて大きな判断材料を得られるのが魅力です。

障害者トライアル雇用は、働き方によって障害者トライアルコースと、障害者短時間トライアルコースの2種類に分けられます。

 

障害者トライアルコースとは

1つ目の選択肢である障害者トライアルコースは、基本的に週20時間以上の勤務体系で働きます。

そのうえで、以下の3つのうちいずれかに該当する障害者が対象となります。

・未経験の職種への就労を希望している人

・2年以内に2回以上離職および転職を経験しており、長期的な勤務を希望している人

・6ヶ月以上のブランクがあり、就職を希望している人

トライアル雇用期間は原則3ヶ月間で、精神障害者の場合は6ヶ月、最長12ヶ月までの延長も可能です。

 

障害者短時間トライアルコースとは

障害により長時間の勤務には不安がある求職者は、2つ目の選択肢である週20時間未満でのスケジュールで働く障害者短時間トライアルコースが利用できます。

障害者トライアルコースと大きく異なるのは、対象が精神障害者および発達障害者に限定されるという点です。これは精神障害者や発達障害者は特性によって「疲れやすい」「長時間の集中が難しい」という場合も多いことから、長時間の勤務が困難とされる障害者の雇用機会を増やすことを目的として実施されている制度であるためです。

こちらのコースでは3ヶ月から12ヶ月がトライアル雇用期間となっており、事業主や求職者の障害の状態に応じて期間はさまざまです。

 

短時間勤務を希望する障害者にはさまざまな選択肢がある

短時間勤務を希望する障害者の方が利用できる支援には、障害者雇用制度のほかにも就労継続支援という手段もあります。ここでは2種類ある就労継続支援について、それぞれの特徴をご紹介します。

 

就労継続支援A型事業所の特徴

就労継続支援事業所とは、一般企業での就労が困難とされる障害者のために、就労の機会を提供する事業所です。生産活動や社会活動を通じて知識やスキルを向上させ、希望者には一般就労を目指すための訓練を行う目的もあります。

就労継続支援事業所には、雇用契約を結んで働くA型と、雇用契約の必要がないB型の2種類があります。

A型は雇用契約を結んで働くため、各自治体の定める最低賃金が保証されている点が特徴であり強みです。そのため一般企業への就職は難しいけれど、ある程度安定的に生活できるためのお金が欲しいと考えている方にとっては、有力な選択肢のひとつとなるでしょう。

 

就労継続支援B型事業所の特徴

先ほども述べた通り、B型事業所の場合は雇用契約を結びません。働いた報酬は賃金ではなく工賃として、労働時間ではなく成果物に対して支払われます。工賃は最低賃金を下回る場合も少なくありませんが、雇用契約を結ぶ基準を満たせる時間の勤務は難しいものの、徐々に働くことに慣れたいと考えている求職者にはおすすめの方法です。

就労内容は軽作業であることが多く、製造業・部品加工・製菓・クリーニング・調理・清掃業などが一般的です。就労時間も1日4時間程度から可能で、自分のペースに合わせて作業時間を決められるという点もメリットと言えるでしょう。また、障害の特性への理解が進んだり症状が安定してくれば、A型事業所へのステップアップも可能です。

 

まとめ

「働きたい」という希望があったとしても、自身の体調や障害の特性に合わせた職種や環境でなければ、継続的に働くことが難しいのは事実です。ですがフルタイムでの勤務が難しい方にとっても、短時間就労を可能とする制度の整備に伴って、障害者の特性に合わせた働き方が選べる就労先が近年増えつつあります。

まずは短時間労働から始めてみて、徐々にフルタイムへの就労へ向けてステップアップしていくことも可能ですので、自分自身の体調や特性とよく相談しつつ、無理なく就労できる働き方選びを考えてみてください。