睡眠障害をお持ちの方が安定して長く働くためのポイントは?
現代社会においては、ストレスに起因して睡眠に何らかの障害を抱えている睡眠障害の方が増加傾向にあります。
睡眠障害は目につきにくい症状も多いことから、職場においては周囲からの理解がなかなか得られない場合もあります。
また、睡眠障害を抱えながらの就業は、眠気による重大な事故や怪我につながる可能性があることから、就職活動の際には障壁をともなってしまいます。
この記事では睡眠障害の基礎知識をはじめ、睡眠障害を抱える方が仕事をするために知っておくべき課題やポイントについてご紹介します。
睡眠障害とは
一般に睡眠障害とは、睡眠に関連するさまざまな疾患を総称したものです。
良好な睡眠が妨げられることで夜中に覚醒してしまったり、日中に睡魔に襲われたり、肉体的・精神的な疲労に悩まされたりします。
起きるべき時間帯にきちんと起きられないことや、仕事や勉強に集中できないことも多くなるため、非常につらい病気と言えるでしょう。
それだけでなく、睡眠障害は外から見ただけではなかなか判断しづらいため、やる気がない、あるいは怠けているなどと誤解されてしまったり、集中力の低下によりミスが増えてしまったりと、社会的に不利な状況に追い込まれることも少なくありません。
こうした睡眠障害といわれるものには、大きく分けて以下で紹介する6種類があります。
不眠症
通常は眠っているべき時間帯になんらかの原因で十分な睡眠をとれなくなり、日中など活動しなければならない時間帯のパフォーマンスが低下してしまう症状です。
夜間になかなか寝付けない、途中で目が覚めてしまう、目覚めが早すぎる、眠りが浅いなど睡眠に関する不調が1ヶ月以上にわたって続き、日中にだるさや注意散漫、抑うつやめまい、意欲や生理的欲求の低下などの症状がみられる場合、不眠症が疑われます。
不眠症の原因としては、ストレス性の場合が多くみられる病気である一方が、心身の病気や薬剤の副作用により発症するケースもあります。
これらはそれぞれストレス性の「一次性不眠症」と、精神や身体の疾患や薬物の摂取・不摂取によって引き起こされる「二次性不眠症」として分類されています。
過眠症
不眠症とは反対に、日頃から夜間に十分な睡眠を取っているにもかかわらず、日中などの時間帯に眠気に襲われるのが過眠症の特徴です。
過眠症の主な症状には、1日中漫然と眠気が止まらない「突発性過眠症」のほかに、1日の内に何回も強力な眠気に襲われて眠りに落ちてしまう「ナルコレプシー」があります。
また向精神薬や頓服薬など、さまざまな処方薬の副作用により活動時間中に眠気が出てしまうケースもあります。
過眠症は勉強や仕事に支障が出るだけではなく、事故や怪我の加害者・被害者になってしまう危険があるため、注意が必要です。
概日リズム睡眠障害
概日リズムとは、人間に生得的に備わっている体内時計の周期です。人間の体内時計は約25時間周期で、地球の自転周期である24時間とは1時間程度ずれています。
通常はこの1時間のズレは「リズム」として自動的にシンクロしていますが、このシンクロが何らかの原因によって上手くいかなくなることで引き起こされるのが概日リズム睡眠障害です。
概日リズム睡眠障害が生じた場合、覚醒と睡眠のリズムを自然な状態に整えようと努力しているにもかかわらず、体内時計とのズレから眠気や倦怠感、頭痛などが生じてしまい、自分の意思での修正が困難になってしまいます。
睡眠時呼吸障害
入眠後に呼吸が停止してしまい、脳や身体が酸欠を起こすことで目が覚めてしまう睡眠障害の一種が睡眠時無呼吸症候群です。
睡眠時無呼吸症候群には、たとえ再び入眠できたとしてもまた呼吸が停止して目覚めてしまい、これを繰り返すことで慢性的な睡眠不足になるという悪循環を生み出してしまう特徴があります。
また長時間にわたって酸欠状態が続くことで、高血圧・動脈硬化・糖尿病など、場合によっては命に関わる重大な病気の発症につながる危険性もあります。
放置すると悪化していくことも少なくないため、早めに治療などの対策を打つ必要があるでしょう。
睡眠関連運動障害
睡眠関連運動障害には、「周期性四肢運動障害」や「むずむず脚(レストレスレッグス)症候群」などがあります。
周期性四肢運動障害は、睡眠中の無意識の状態にもかかわらず、四肢の運動が繰り返して引き起こされるのが主な特徴です。
この四肢の運動が脳神経への刺激となることで睡眠中に覚醒してしまったり、睡眠の質が悪くなったりするため、日中でも眠気が取れない状態が続いてしまいます。
むずむず脚症候群は、日没ごろから真夜中にかけての入眠へと向かう時間帯に、脚部にむずむず感が発生してしまい、眠れなくなってしまったり、睡眠途中で目覚めてしまったりします。
むずむず脚症候群の原因ははっきりしていませんが、一説には脳の神経伝達物質であるドパミンが関係していると考えられています。
睡眠時随伴症
睡眠時随伴症には「睡眠麻痺」「睡眠時遊行症」「睡眠時驚愕症」などいくつかの種類があります。
睡眠麻痺は俗に「金縛り」と言われるような、入眠時や睡眠からの覚醒時に四肢や体幹などを自由に動かせなくなってしまう症状が表れるのが特徴です。幻聴などの幻覚を伴う場合もあります。
睡眠時遊行症は睡眠時に無自覚に起き上がって歩き回ってしまう、睡眠時驚愕症は睡眠途中の発汗・頻脈とともに叫んで目覚めてしまうというのが主な症状です。
これら睡眠時随伴症の主な原因は、睡眠中や睡眠と覚醒との移行の際に、神経活動が亢進(活発になること)してしまうことであると考えられています。
睡眠障害者が仕事をするうえでの課題
希望のため、あるいは生活のため、辛い睡眠障害を抱えていてもなんとか仕事をしたいという方は多いでしょう。
睡眠障害者の方が仕事をするとき、課題となるのはどのような点でしょうか。
障害の説明が難しい
まず第一に、自分の障害を職場の上司や同僚に説明することの困難さが挙げられます。
上司や同僚から、集中力の低下や眠気の原因について問われたとしても、睡眠障害を持っていると正直に答えるのは勇気がいります。
また医学的にも原因や治療法に不明点の多い障害であるため、本人の口から合理的な説明をするのは難しいかもしれません。
障害が理解されづらい
睡眠障害は本人以外からはその症状が分かりづらいため、周囲からの理解を得られない場合があります。
集中力の低下が原因になって仕事でミスをしたり、勤怠状況が不規則になったりしても、その原因が障害であるということが理解されづらいのです。。
もちろん望んでそうなっているわけではないとは言え、周囲からは真面目に仕事をしていない、あるいは怠けていると思われてしまうかもしれません。
また、障害について真摯に説明しようとしても、理解されずに根性や努力といった精神論にされてしまうと、説明するのが嫌になってしまう可能性もあります。
良好な職場環境が見つかりにくい
上述した課題に加えて、以前よりも一般社会での睡眠障害に対する認知が進んできたとはいえ、十分な理解と配慮が受けられる職場に巡り合うことは、まだまだ容易ではないのが現状です。
睡眠障害であると診断されたとしても、傷病手当金や有給休暇などの合理的配慮を受けられる制度が十分に整っている職場は多くありません。
また障害への合理的配慮や支援制度は求人票に明記されていることが少ないため、睡眠障害と向き合いながら長期就労可能な職場を見つけることは、多くの困難を伴うと言えるでしょう。
睡眠障害者が仕事を探す流れ
就労する上でこうした課題を抱える睡眠障害者の方は、どのように仕事を探せばよいのでしょうか。
ここからは求職活動を成功させるために押さえておきたい流れを見ていきましょう。
まずは自分自身をよく知る
一般的にも求職活動全般に言えることですが、まずは自己分析から始めてみましょう。
例えば自身の睡眠状態を客観的に知るためには、世界保健機関(WHO)が策定した「アテネ不眠尺度(AIS)」を利用する方法があります。
これは各選択肢に点数が割り振られたいくつかの質問に答え、点数を合計することによって不眠症の程度が自己診断できるというものです。
もちろんどの症状にも当てはまるわけではありませんが、就職活動において自身の状態を再確認するためには便利な方法です。
各医療機関などが提供している睡眠に関するチェックシートなどを活用すればオンラインでの自己診断も可能です。
理解と配慮がある職場を探す
一般公開されている求人票などを見ているだけで、合理的配慮がある職場を見つけるのが難しいと感じたら、障害専門の担当者がいる就労支援施設を頼ってみるのもひとつの手段です。
ハローワークでは障害支援専門の担当者に相談したり、一緒に障害者枠の仕事を検索したりできます。睡眠障害は現代社会ではある程度一般化してきている症状であるため、理解を示してくれる担当者もいるでしょう。また公共機関だけでなく民間の就職支援サービスでも、障害者向けの求人掲載と定着支援に力を入れているところがいくつか存在しますので、そちらを頼るのもよいでしょう。
医師など専門家にも相談する
夜間に一時的に眠れなかったり、日中に眠気を催してしまったりすること自体は、健康な方でもごく当たり前にみられます。
医師などの専門家に相談する目安は、睡眠に関係する不調が1ヶ月以上にわたって継続しており、自身で修正しようとしても改善しない場合です。
睡眠障害は、自分の意思と努力だけでは解決が難しい症状であるため、内科・心療内科や精神科の医師など、専門知識と治療技術をもった専門家に相談するのが良いでしょう。
また一定の規模の会社には産業医が配置されているため、定期健診以外でも就業当初から診察を受けたり事情を話しておくなど、理解が得られるようつながりを持っておくことも重要です。
睡眠障害者の職場定着のコツ
求職だけでなく就職後の職場定着についても、睡眠障害による課題が生まれる可能性が残されています。ここでは、睡眠障害と上手に付き合いながら長く仕事を続けるためのコツをご紹介します。
労働条件をよく確認する
雇用契約書や就業規則などを熟読し、可能であれば事前に職場見学をさせてもらうのも有効です。
過剰な残業や、夜勤が連続しているなどの不規則勤務がないかどうかもチェックしておきましょう。
また体調が悪化して休養が必要になった際、遠慮なく休暇を取得できるルールが整備されているかも確認しておきましょう。
不当な扱いを受けない職場かどうかは、Web上に公開されている会社評判などもある程度の参考にはなりますが、信ぴょう性については自分で判断する必要が出てきます。
福利厚生制度を上手に活用する
医師の診断書があれば一定期間の休暇が取得できたり、産業医や保健師などによる健康相談を受けられたりといった福利厚生制度を事前に確認しておき、必要ならば遠慮せず活用しましょう。また会社の制度だけでなく、傷病手当金や障害年金といった社会保険による支援制度も併用していくとより安心です。
福利厚生は会社にとって、社員に安定的に長く働いてもらうための制度ですから、長期的に考えて有効活用していきましょう。
良好な人間関係を作る
上司や同僚などとの良好な人間関係の構築は、長く働くことを目指す上で重要です。
睡眠障害の原因として挙げられるものの中には、ネガティブな人間関係から受けるストレスも該当します。周囲へ過剰に配慮しなければならなかったり、誰にも吐き出せない気持ちを抱えながら仕事をしたりするのは、仕事面でも健康面でもつらさを増すことになります。
良好な人間関係を構築することを心がけ、必要なときに助け合える職場環境を作っていきましょう。
障害者雇用も検討する
睡眠障害はうつ病などの精神障害が原因で二次障害として発症するケースも少なくありません。逆に睡眠障害が原因でうつ病になることもありえます。その場合は、「精神障害者保健福祉手帳」の取得も選択肢に入ってきます。
精神障害者保健福祉手帳を取得すれば、就労の際に障害者枠での雇用という選択肢が入ってくるだけでなく、税制上の優遇措置が受けられる、医療費や公共交通サービスなどで支援措置が受けられるなど多くのメリットがあります。
まとめ
この記事では、睡眠障害者の方が長く良好な環境で仕事をするためのポイントについて、障害の概要や課題・解決策について紹介しました。
障害がなかなか理解してもらえないことに苦しさを感じる場合も多いと思いますが、ひとりで無理をせず周囲の理解を求めつつ、一緒に解決策を考えることで、何らかの糸口が見つかるかもしれません。
睡眠障害に悩みながら求職活動をしている方にとって、この記事がお役に立てたならば幸いです。