下垂体性ADH分泌異常症とは?概要から障害年金の受け取り方までを紹介

2023年1月11日

下垂体性ADH分泌異常症は全国に5,000人から1万人、潜在的な患者数はそれ以上と推定される指定難病です。症状によって日常生活にさまざまな支障をきたすばかりでなく、収入の減少と医療費の増大で十分な医療が受けられなくなる恐れがあります。そうした病気によって生じる経済的問題への対処法として挙げられるのが、障害年金の受給です。

障害年金の支給対象は失明や手足の欠損、重度の知的障害といった特定の方々だけではありません。年金保険料を一定以上の期間支払っている、病気や怪我によって日常生活に支障が出ている方であれば、誰でも支給の対象です。

この記事では、障害年金の受給対象となり得る下垂体性ADH分泌異常症の特徴と、障害年金の申請方法と支給金額について詳しく解説します。

 

下垂体性ADH分泌異常症とは

下垂体性ADH分泌異常症は、現在に至るまで根本的な治療法が見つかっていません。しかし、適切な治療により症状に苦しまず、入院などの制約もなく日常生活を送ることのできる病気です。

ここでは、下垂体性ADH分泌異常症の症状や発症原因、診断方法、治療方法、類似する病気について紹介します。病気の種類によっては自覚症状が無い場合もあるため、自己判断で対処せず医師の診断による適切な処置が望まれます。

 

主な症状

下垂体性ADH分泌異常症とは、血液中のADH量が適正範囲より減少または増加により発症する病気を指します。ADHは抗利尿ホルモンとも翻訳されていて、尿量を減少させる働きを持つホルモンです。ADHの分泌が減少した場合に発症する下垂体性ADH分泌異常症が中枢性尿崩症、分泌が過剰な場合はSIADH(バソプレシン分泌過剰症)と分類されます。

健康的な人間は1日で150Lの尿を生成しますが、腎臓によってろ過される過程でADHが作用し、実際の尿量を1.5Lほどに抑える仕組みになっています。しかし、中枢性尿崩症の方は十分にADHが分泌されないため、尿量の抑制が十分に働きません。

症状によっては1日に10Lの水分を摂取しその日のうちにすべて尿として排出する症例もあります。大量の水分を排出するため頻繁にのどが渇き、水分が必要となる病気です。また、大量の水分摂取による食欲低下や夜間の頻繁な排泄による睡眠不足など、二次的な症状が発生する恐れもあります。

SIADHが発症した場合は排出する尿量が少なくなる分、体内の水分量が増加するため、血液中のナトリウムが薄まり低ナトリウム血症を引き起こすのも症状の一つです。軽度の低ナトリウム血症では注意力や歩行の安定性が低下し、転倒しやすくなります。症状が進行した場合は意識障害や筋肉のけいれんを引き起こし、最悪の場合は死に至る恐れがあるため十分な注意が必要です。

 

発症原因

中枢性尿崩症の病因は脳腫瘍や外傷、結核、動脈瘤、脳炎などさまざまです。こうした病因による発症の割合は全体の8割から9割で、遺伝による発症は全体の1%程度となっています。

SIADHは脳腫瘍などの脳の病気や、肺炎や肺がんなどの肺の病気に伴って発症する病気です。また、躁状態治療剤のカルバマゼピンや抗がん剤のシスプラチンなど、薬の副作用でSIADHが発症する事例も一部で報告されています。

 

診断基準

中枢性尿崩症の場合は1日3,000mL以上の排尿が診断の目安です。膀胱は約100~150mLで尿意を感じはじめ、250~300mLに達すると尿意の限界に近づきます。正確な診断には尿浸透圧や血漿バゾプレシン濃度などを計測する必要があるため、尿量が多いと感じた場合は病院で診察を受けてください。

SIADHは中枢性尿崩症と異なり、尿量によって目安をつけることはできません。また、脱水症状が発生しない点もSIADHの特徴の一つです。関連成分量と腎機能の検査が必要となるため、病院による診断が必要となります。

 

治療方法

中枢性尿崩症・SIADH共に腫瘍などによって発生した場合は、速やかな原因の除去と治療が必要です。原因となる症状が早期に治療できた場合は、下垂体性ADH分泌異常症が治癒する可能性があります。

中枢性尿崩症はADHが分泌されないために起こる病気で、飲む水の量を減らしても尿量は減少しません。中枢性尿崩症の治療には経鼻薬のデスモプレシン、または経口薬のミニリンメルトOD錠などの薬を投与して尿量を減少させます。進行した場合の治癒は極めて難しいため、継続的な投与が必要です。

進行したSIADHは、水分摂取量の制限を治療とします。1日に体重1kgあたり15~20mLの水分摂取が、一般社団法人日本内分泌学会によって推奨されている目安です。低ナトリウム血症の程度によっては継続的な食塩の摂取を行い、症状が改善されない場合は経口薬のトルバプタンを投与します。

 

類似する病気

中枢性尿崩症は下垂体性ADH分泌異常症の一種であると共に、異常な量の尿が発生する尿崩症の原因として分類される病気です。中枢性尿崩症と症状がよく似ている尿崩症の原因として糖尿病、腎性尿崩症、心因性多飲症が挙げられます。

糖尿病は一日の尿量が3,000mL以上に達する多尿の症状が最も発生しやすいです。糖尿病は進行すると血管疾患、末梢神経障害などの合併症を引き起こすため、早期の診断による発見が望まれます。

腎性尿崩症は中枢性尿崩症と異なりADHではなく腎臓に問題が発生している場合に発症する尿崩症です。心因性多飲症はストレスなどによる心理的な問題を水を飲むことで和らげようとする症状であり、ADHや腎臓に問題が無い場合でも発症する場合があります。

原因の判定には血液検査と尿検査と尿検査が必要です。心因性多飲症の場合は両検査に加え、カウンセリングも必要となります。診断には専門的な知識が必要なため、疑わしき症状が出た際は医師の診察と指示を受けてください。

また、SIADHと同じく低ナトリウム血症を発症するため区別しづらい病気が、中枢性塩類喪失症候群(CSWS)です。高齢者など脱水症状が分かりづらいケースでは、鉱質コルチコイド反応性低Na血症(MRHE)と誤診される恐れもあります。

SIADH、CSWS、MRHEの見分けは専門の医師でも困難です。そのためSIADHの治療を受けて症状が改善されない場合はほかの類似した病気の存在を医師に伝えることが、早期発見につながります。

 

指定難病による障害年金の申請方法

下垂体性ADH分泌異常症をはじめとした指定難病は、多額の治療費を必要とするばかりでなく、日常の行動にも制約が加わり仕事および収入にも悪影響が出る恐れがあります。

こうした弊害を金銭面で緩和する福祉制度が障害年金です。ここでは受給条件や申請書類、申請時の注意点を挙げつつ、障害年金を受給する方法を紹介します。

 

指定難病とは

指定難病とは難病法に定められた難病のうち、水準以上の症状を抱える場合に医療費助成の対象となる難病のことをいいます。下垂体性ADH分泌異常症も告示番号72の指定難病として登録されています。ただし、医療費助成には指定難病医療受給者証の申請と承認が必要です。

難病とは、発病原因が不明で治療法が未確立で、長期間の療養を必要とする病気を指します。難病法第5条で定められている特定難病指定の条件は以下の通りです。

 

1.患者数が日本全人口の0.1%未満

2.「客観的な診断基準、またはそれに準ずるものが確立している」(第14回指定難病検討委員会資料)

 

受給するための条件

障害年金とは、特定難病などをはじめとした病気や怪我により、労働や家事などといった日常生活に支障をきたしている方を金銭的な面からサポートする年金制度です。

障害年金は下垂体性ADH分泌異常症などの指定難病と診断されたとしても、自動的に支給されません。後述する3つの条件を満たす書類を提出する必要がありますが、それらの書類を提出しただけで必ず支給が決定するわけではないので注意が必要です。病気や怪我によって生活がどれだけ困っているかという点にいて、具体的かつ事実に基づいた説明が求められます。

障害年金を受給するためには診断書などによる病状の説明とは別に、初診日、年金保険料納付、障害認定日が支給条件に沿った内容であることを証明しなければなりません。

初診日とは、国民年金と厚生年金の被保険者期間中に、障害の原因となった傷病を初めて診察した日です。初診日は障害として診断された時の受診日ではなく、障害の原因となった症状への初受診日となります。また、年金加入前である20歳以前や60~65歳未満に初診日が確認できる傷病が発生した場合も、障害基礎年金の対象です。

年金保険料納付については対象期間の内、3分の2以上の期間で保険料を納付または免除されていることを確認します。対象期間とは原則として初診日の前日の時点で、公的年金に加入してから初診日の月の前々月までの期間です。ただし、支払期間が規定以下でも以下の条件を満たすことで、納付条件を達成できます。

 

1.初診日の時点で年齢が65歳末満

2.初診日の属する月の前々月までの1年間、保険料を納め続けていた

 

最後の条件である障害認定日は2つの方法で計測されます。1つ目は、初診日から数えて1年6か月を経過した日を障害認定日とする方法です。2つ目は、初診日から1年6か月が経過する前に傷病が「治った」ことが医師から認められた場合、その診察で認められた日を障害認定日とする方法です。なお、ここでの「治った」とは傷病が完治したという意味ではなく、これ以上は治療の効果が見られない状態を指しています。

 

必要書類

必要となる提出書類は膨大です。まず、国民年金加入期間を確認できる書類を用意しましょう。基礎年金番号通知書または年金手帳など、当人の基礎年金番号が記載された書類が該当します。戸籍謄本などの生年月日確認用書類、所定の様式に沿った医師の診断書、受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書、受取先金融機関の通帳またはカードも必要です。

以上はすべての障害年金申請者に共通して必要となる書類で、配偶者または子どもがいる場合、障害の原因が第三者である場合などは別途書類が必要となります。詳しくは日本年金機構のホームページで確認が可能です。なお日本年金機構にマイナンバーを登録している場合は、提出不要となる書類もあります。

 

申請までの流れ

障害年金は市区町村役場の窓口、年金事務所または年金相談センターで申請可能です。申請場所は初診日の時点で加入していた国民年金の種類によって異なります。

初診日に第3号被保険者であった場合は年金事務所または年金相談センター、それ以外の方は市区町村役場の窓口が提出先です。第3号被保険者とは第2号被保険者(※)に扶養されている配偶者であり厚生年金保険と健康保険に加入していない、年収が130万円未満で20歳以上60歳未満の国民年金加入者が該当します。

障害年金の受給可否を判断するために使われる書類は、先述の必要種類のうち受診状況等証明書、診断書、病歴・就労状況等申立書の3つです。このうち受診状況等証明書と診断書は医師によって作成されますが、病歴・就労状況等申立書の作成は本人またはその家族・代理人が行います。

このうち病歴・就労状況等申立書は、障害の原因となる傷病の状態、受診・治療の履歴、日常生活の状態など、発症から現在に至るまでの経過を記載する書類です。この書類を作成する過程で症状や受診歴が整理できます。そのため、まずはこの申立書を作成して医師の診察時に申立書を資料として説明することで、受信状況等証明書と診断書の作成が円滑に進むでしょう。

 

※国民年金と厚生年金の両方に加入している被保険者

 

申請を行うときの注意点

申請を行う際に必要な注意について、手続きの流れに沿って説明します。

初診日を確認する際に最も確実な書類は、診察の際に作成されるカルテです。ただし、カルテの保存期間は治療の完了から5年間と法律で定められています。そのため長い年月が経過すると既にカルテが廃棄されているケースが発生するのです。また、病院自体の廃院でカルテが廃棄されているケースもあります。

しかし、カルテが見つからない場合でも、障害年金の申請を諦める必要はありません。「一定の期間の始期と終期を示す参考資料」と「本人申し立ての初診日についての参考資料」を示す書類をそろえれば、初診日を証明できます。

「一定の期間の始期と終期を示す参考資料」とは診断書など、初診日があったと推測される期間のはじまりと終わりを示す書類です。「本人申し立ての初診日についての参考資料」は診断書以外にも、健康保険の給付記録などが証拠書類として認められます。

医師の診断を受けて診断書を受け取ったら、開封して記載内容を確認しましょう。意思疎通が不十分だったり、医師が障害年金の制度を十分に把握していなかったりする場合、意図した内容と異なる記載や不都合が生じる記載となっている恐れがあるためです。内容が異なる場合は再度医師との診断を受け、話し合いにより内容を修正する必要があります。なお、郵送もしくは手渡された封筒を開封しても診断書は無効にはなりません。

必要書類を揃えて提出した後、審査結果が通知されるまで短くとも3か月程度必要です。その審査の結果によっては不支給決定または申請却下とされる場合があります。決定が納得できない場合は不服申立制度を活用して審査請求を行えますが、この制度の利用期限は審査結果を知った日の翌日から、3か月以内と定められている点に注意してください。

障害の分類や請求方法など、障害年金の申請における注意事項は多岐にわたります。不明点について確認したい場合は、年金事務所または年金相談センターでの相談が可能です。ただし、年金事務所では電話による事前予約が必要なので注意しましょう。

 

障害年金の種類

障害年金は障害基礎年金、障害厚生年金、障害手当金の3種類です。これらの障害年金は加入している、もしくは過去に加入していた公的年金の種類と障害の等級によって決定されるため、支給額はそれぞれ異なります。

なお、障害の等級を決定する障害認定基準は明確な基準を定めるのが難しいため、各等級の差が曖昧となり障害等級を確定できません。そのため、ここで紹介する障害年金の支給額は参考程度に捉えてください。また、記載している金額は2022年6月時点での金額です。

 

障害厚生年金

障害厚生年金は初診日の時点で厚生年金に加入していた場合に支給される障害年金です。障害厚生年金が支給される場合は、後述する障害基礎年金に加算される形で障害厚生年金が支給されます。

継続的に支給される障害厚生年金は障害の程度によって1級から3級に区分されており、最も症状の軽い3級の年間総支給額は報酬比例額(最低金額は583,400円)と同額です。2級では報酬比例額に配偶者の加給年金額223,800円を加算した金額となり、1級は報酬比例額を25%増額した金額に配偶者の加給年金を追加した金額となります。

加給年金の対象となる配偶者とは、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上存在する65歳未満の方です。加給年金額の加算は障害年金とは別に申請が必要となります。なお配偶者が老齢厚生年金または退職共済年金(※)を受給する権利がある場合と、配偶者自身が障害年金を受給している場合は配偶者分の加給年金が支給停止される点に留意しておきましょう。

 

※どちらの年金も被保険者期間が20年以上の場合のみ対象となります。

 

障害基礎年金

障害基礎年金は初診日の時点における国民年金の加入者に交付される障害年金です。20歳未満の時点で初診日を迎えた場合は、交付に関する保険料納付要件が免除されます。

障害基礎年金は扶養している子どもの人数に伴い、支給額が追加される仕組みです。子どもが2人までの場合は1人につき223,800円、3人目以降は1人74,600円増額されます。障害基礎年金における子どもとは、18歳になった後の最初の3月31日までの子ども、または障害等級1級または2級の状態にある20歳未満の子どもを指します。

障害基礎年金の年間総支給額は2級で777,800円、1級で972,250円に子どもの人数分の金額が追加された金額となります。

なお、障害厚生年金と異なり障害基礎年金に3級の区分は存在しません。

 

障害手当金

障害手当金は障害厚生年金に属する給付金です。以下の2つの条件を満たすと障害手当金の支給条件を満たします。

 

1.初診日から5年以内に、障害等級3級より軽度の障害の状態が固定化する

2.日々の労働に制限が発生するか制限を必要とする状態である

 

障害手当金はほかの障害厚生年金や障害基礎年金と異なり、一度だけ給付される障害年金です。支給額は報酬比例額を2倍した金額であり、最低でも1,166,800円が給付されます。厚生年金の加入期間が300か月以上の加入者は障害手当金が増額されます。

ただし、申請の時点で既に老齢厚生年金を受給している場合、障害手当金の併給は認められていません。また、現在は受け取っていない場合でも障害認定日の時点で以下の給付などを受けていた場合は、障害手当金の受給対象外となります。

 

1.厚生年金、国民年金、共済年金のいずれかを受給していた

2.労働基準法または労働者災害補償保険法などの法律に定められた障害補償を受けていた

3.船員保険法に定められた障害補償が給付されていた

 

まとめ

下垂体性ADH分泌異常症は過剰なのどの渇きと尿量の異常に襲われる、または意識障害やけいれんなどを引き起こす病気です。症例数の少ない病気のため治療できる病院は少なく、治療開始まで日常生活に大きな支障をきたします。

こうした傷病の負担を緩和するためのセーフティーネットが障害年金です。決められた期間の保険料を支払い自らの症状とそれに伴う困難を明文化し、必要書類を揃えて提出することで障害年金は支給されます。扶養する配偶者や子どもがいる場合は支給額が増額される仕組みですが、さまざまな条件があるので、疑問点があれば年金事務所をはじめとする機関に相談してみてください。

障害年金で負担を軽減して収入減と医療費をカバーして、1日も早い日常生活への復帰が可能となるでしょう。