適応障害の方が転職に成功するポイントは?おすすめの方法から再発防止策まで

2023年1月12日

ストレスの多い現代社会では、適応障害を起こすことは珍しくありません。そして、現在の仕事で適応障害の症状を辛く感じていて、転職を考えている方が多いことも事実です。この記事では、適応障害をお持ちの方が転職を成功させるためのポイントについて、おすすめの転職方法から再発防止策まで解説します。

「適応障害」ってどんなもの?

適応障害は、日常生活で起こるさまざまなストレスに上手に対応できないことにより、不安・抑うつ・緊張といった精神症状や、怒りやすくなるなどの異常行動が現われ、社会生活が円滑に回らなくなる障害です。世界的に参照されている米国精神医学会作成の診断マニュアル「DSM‐5」(2013年)によると、適応障害の診断基準は以下の通りとなっています。

  • ストレスの原因が明確であり、その原因が生じてから3ヶ月以内に症状が出現する
  • 症状に以下のどちらか、または両方が含まれる
    • ストレスの原因となることに不相応なレベルの症状や苦痛がある
    • 社会的、職業的など生活面で重大な機能的障害がある
  • 他の精神疾患では説明がつかない
  • その症状は通常の死別への反応では現れない
  • ストレスの原因がなくなった場合、症状はそれから6か月以上は続かない

また、世界保健機関(WHO)の診断ガイドライン「ICD-10」は、適応障害を「ストレス要因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態」としています。

適応障害は、ストレスの原因がはっきりとしている点が特徴です。職場では、同僚や上司との緊張関係や、転置・転勤などの環境変化が多い傾向にあります。ストレスに弱い方や神経がデリケートな方は、一人で苦悩を抱え込みやすく、適応障害を起こす確率が高いかもしれません。

ストレスが原因とされる精神障害には、他にうつ病や不安障害などもあります。適応障害は他の精神障害との境界が定まらない場合が多く、最初は適応障害と診断されても、統合失調症・うつ病・不安障害などと、診断名が変化するケースもあるでしょう。不安障害やうつ病の診断基準を満たす場合は、そちらが優先されて診断名が付けられるかもしれません。一方、適応障害は、状態や環境への不適応によって起こります。適応障害はうつ病や不安障害などの診断基準に当てはまらず、他の障害が悪化したわけでもない場合に、診断されることが多いのです。

そして、適応障害は外因性の要素と内因性の要素の両方によって起こります。

外因性の要素とは、人間関係や社会的環境によるストレスなどで、刺激に神経が過度に反応する状態です。例えば、職場・家庭・学校での摩擦や、天災・人災・失恋・離別・死別・傷害・病気などが該当します。一方、内因性の要素とは、本人の性格やそのストレスへの対応能力のことです。

適応障害の症状は、うつ病や不安障害の症状と類似しています。異なる点は、原因となる事象がはっきりしていることです。もし、原因が仕事に由来する場合、休職することで症状が回復するなら適応障害と診断されるでしょう。

もし、精神的な苦痛や社会機能での障害が起こっていたら、適応障害として診断される傾向にあります。ただ、ストレスの原因から離れて6か月以上症状が継続した場合は、適応障害とは診断されません。なお、適応障害は「うつ病になる以前の、比較的軽い精神疾患」と見なされることがほとんどです。厚生労働省の調べでは、適応障害と診断された人の4割超が、5年後にうつ病などの診断名に変わっていることが判明しています。

うつ病や不安障害では、ストレスの原因事象が消えても、症状は治まりません。適応障害の場合は、ストレスの具体的原因が除かれると症状も軽快します。しかし、これは実際には難しく、ストレスと上手に付き合う方法を取る方が現実的です。

なお、適応障害には、脳神経の検査などによる定量的な診断基準はありません。症状やストレスについて、言葉で問診したり心理検査をしたりして、他の精神障害の基準に当てはまらないか判断します。そして社会的なストレスと症状の因果関係が明らかであると分かれば、適応障害の診断名が付くのです。

仕事における適応障害の特徴

では、仕事中に現れる適応障害の特徴的症状は、どのようなものなのでしょうか。

精神面・身体面・言動面・生活面から見てみましょう。

精神面に表れる症状

精神面に表れる症状としては、不安・抑うつ・集中力の欠如・気分の高ぶりなどがあります。

例えば、血気が盛んで怒りやすくなる、勤労意欲が減退する、作業への集中力を欠く、ぼんやりする、物忘れがひどくなる、漠然とした不安に捉われる、憂鬱な気分が表出するなどの精神症状が特徴です。緊張・不安・焦り・怒り・抑うつといった症状は、うつ病や不安障害でもよく見られ、思考力・判断力・集中力が下がり、職場のコミュニケーションで障害になることもあります。

身体面に表れる症状

適応障害の症状は、身体に現れることもあります。動悸(どうき)・息切れ・倦怠(けんたい)感がある、眩暈(めまい)を起こす、冷汗をかく、胸部に圧迫を感じる、睡眠の質が低下する、消化器の膨満感がある、吐き気を催す、頭痛や耳鳴りがする、手先や口唇がしびれて震える、などの症状が挙げられます。

精神症状と身体症状は連動しているケースも多く、例えば抑うつでは、頭痛・睡眠障害・食欲低下・疲労倦怠感などの症状が見られることもあります。その他、緊張や不安が高まると、めまい・震え・吐き気・発汗といった症状が現れることもあるのです。

言動面に表れる症状

適応障害では言動にも変化が出ます。特に抑うつ状態の時は、意欲を上げようと力んでも上がりません。これまで職務をきちんと果たしていた方でも、仕事へのモチベーションが減退したり、集中力が欠如したりすることもあります。

症状が重くなると暴飲・暴食に走る、自暴自棄になる、反社会的な言動を取るなど、本人の素行からは想像できない状態に陥る場合がある点も特徴です。無断で休憩や欠勤をしてしまう、衝動性や攻撃性が増して口論やけんかになる、過度に感情的で情緒不安定になる、喫煙や飲酒を過度に繰り返す、自傷行為に走る、身体を揺さぶってしまう、なども一例といえます。

生活面に表れる症状

自律神経の失調は、適応障害を起こす原因の一つと考えられています。生活のリズムが不規則ならば、まずはリズムを整えることから始めましょう。朝の光を浴びたり、運動をしたりすることで適度に身体を覚醒させて、体液の循環を促進します。生活習慣のサイクルを整えると、普通に仕事ができるまでに回復する可能性もあるのです。症状が悪化する前に、休憩・休職・辞職などの対策を取ることが大切です。

適応障害の方が転職を成功させる5つのコツ

適応障害の方にとって転職は難しいように見えますが、押さえておくと良いポイントもいくつかあります。ここでは5つの項目毎にご紹介します。

自分と仕事を知る

まずは、自分自身のことをよく知ることが肝心です。転職活動中にどのようなストレスが症状を引き起こしやすいのか、あらかじめ自己分析し直してみましょう。また、仕事の特性を良く理解しておくことが重要です。この業界や業種の仕事ではどのような業務があって、どのようなやり方をするのか。そしてその業務が自分に合っているのかどうかを考えてみましょう。

自分の得意とする仕事と、実際に行う業務内容がマッチしているかを見極めることが重要です。

適応障害の方に向く環境を選ぶ

あくまで個々人の特性などによって異なりますが、一般的に「適応障害に向いているとされる環境」というものも存在します。一例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 症状が現れた時に休める
  • 休んだ後に復職しやすい
  • 柔軟な働き方に対応してくれる
  • 苦痛なコミュニケーションを取る必要がなく、一人で仕事を進められる
  • 職場の空気に合わせる必要がない
  • やるべき仕事が決まっていて、迷う必要がない

例えば、軽作業・清掃作業員・警備員・工場作業員・オフィス事務や営業のサポートなど、毎日の業務がおおむね固定されている仕事は、職務内容の変化がストレスになる方に向いているでしょう。

また、データー入力・Webライター・Webデザイナー・DTPデザイナー・歩合制の営業職など、職場環境に無理に合わせなくても良く、一人でできる作業もおすすめです。

その他、クリエイティブ職・エンジニア・アーティスト・モノづくりといった職種は、自分の専門的能力だけでも務まりやすい傾向にあります。障害があってもチャレンジしたい方には向いています。これらの職種に就ければ、人間関係のストレスはある程度楽になるかもしれません。

昨今は新型コロナ禍でテレワークが一般化したことも追い風となり、テレワークだけで自活することも十分可能な時代になりました。経営側にとっても、テレワークでできる仕事はテレワークでしてもらうことで、オフィス賃料や設備環境費、交通費などをカットできるというメリットもあります。

適応障害の方が苦手とする仕事を避ける

ストレス耐性が低い方は、厳しいノルマに追われたり、ストレスの重かったりする仕事は避けましょう。クレーム対応もしなければならないカスタマーサポート、ノルマの厳しいセールス職、管理責任のある役職などは、あまりおすすめできません。

ストレスが溜まりやすい仕事に就いてしまうと、ストレスの原因そのものを回避することは難しくなります。まずは自身の健康を優先して、仕事を考えましょう。また、適応障害の症状が出ている間は、無理な仕事は控えることが大切です。心身の不調が十分に回復していないならば、転職活動そのものを延期することも視野に入れてください。

医療機関のサポートを受ける

もし自分や周りの方が適応障害かもしれないと思ったら、精神科や心療内科といった専門医を訪ねましょう。適応障害の可能性がある方の転職活動では、医療機関にできることとできないことを判断してもらうと安心です。

誰でも、ストレスを100%なくすことは難しいため、ストレスと上手に付き合いつつ、薬物療法や認知行動療法を組み合わせることが多くなります。

  • 薬物療法
    抗不安薬・抗うつ薬・睡眠薬などを補助的に用いるもの。薬によっては副作用もあるため、医師がすぐに処方してくれるとは限りません。
  • 認知行動療法
    カウンセリングのなかで行動や考え方を変えていく精神療法(心理療法)の一種です。効果が見えるまでには一定の時間が必要ですが、薬物に頼らずに効果が期待できます。

あるいは、産業医に相談してみるのも良いでしょう。産業医とは、労働安全衛生法で常時50人以上を雇用する事業所に選任義務が定められている医師です。産業医の多くは、働く人の精神疾患についても専門的知識を有しています。守秘義務がありますので、相談内容が仕事をする上で不利に働く心配もありません。

転職して間もない時期は、症状も治まったように見え、適応障害がすでに治ったと思う方も少なくありません。しかし、環境が変わったことにより、新たな職責や人間関係でストレスが蓄積され、一定ラインを超えたところで急に体調がおかしくなるケースもあります。再発を防止して、新しい仕事を続けられるように、通院や服薬を独断で中止するのはやめましょう。

職業支援機関を活用する

適応障害との診断名が付いている期間は、公共職業安定所(ハローワーク)の専門窓口や障害者向けエージェントで障害者雇用枠を探すと良いでしょう。

ハローワークは、民間の職業紹介事業などでは就職が困難な方を中心に支援する国の機関です。職業紹介・職業相談・雇用保険、雇用対策などの業務を行っており、障害専門の援助窓口も設置されています。ハローワークの障害専門窓口では、「障害者職業センター」や「障害者就労・生活支援センター」などの外部専門機関と連携してサポートしてくれることもあります。独立行政法人高齢者・障害者雇用支援機構が運営する「障害者職業センター」は仕事探しを、「障害者就業・生活支援センター」は日常生活と就労の両面を支援してくれます。上手に利用することで、転職活動の負担を軽くできるでしょう。

また、最近は官民を挙げての障害者雇用が促進されており、障害者向け転職エージェントも増えました。エージェントによっては企業とのコネクションを持っていたり、一般非公開の求人を紹介してもらったりすることも可能です。障害者求人に対応した転職エージェントでは、職場環境・職務内容の詳細な情報まで教えてもらいやすく、障害に応じた求人に出会える確率が高まります。エージェントごとに得意なジャンルがあるので、ぜひ調べてみましょう。利用料金は基本的に無料ですので、まずは登録から始めてみてください。

また、障害者総合支援法による福祉サービスである「就労移行支援」もおすすめです。就労移行支援は、一般企業への就労を目指す障害者が利用でき、適応障害者などの精神障害者をサポートする就労移行支援事業所もたくさんあります。就労移行支援では、精神面・体調面・生活面への配慮を受けながら、最長で2年間、就労訓練や企業実習などの活動に参加でき、収入が少ない方は無料で利用できます。いきなりの転職に不安がある方は検討してみてはいかがでしょうか。

その他、就労継続支援という福祉サービスもあります。障害者が働きながらサポートも受けられるもので、A型とB型があり、A型は最低賃金が保障されている点が特徴です。

転職後に再発を防ぐためのポイント

転職後に適応障害を再発させないためには、どうしたら良いのでしょうか。ポイントは、同じようなストレスがかかるような職場・職種を慎重に避けるということです。転職できたとしても、環境が合わなければ、適応障害が再発する危険性があります。体調よりも転職すること自体を優先して、心身に負担をかけてまで焦る必要はありません。余裕をもって考えることがポイントです。

また家族や友人など、親しい方々からのサポートも非常に効果的といえます。一人で抱え込まずに、周囲の方々に支えてもらいながら転職・仕事に取り組む意識を持ちましょう。

まとめ

この記事では、転職をお考えの適応障害の方に向けて、成功のポイントを解説しました。

障害の有無に関わらず、安定して続けられる仕事に就くことが大切です。適応障害があっても働ける環境は必ずどこかにあるので、自分にとっても周囲にとっても、最適の職業を見つけましょう。