公務員の障害者雇用の現状は?試験・面接の傾向と対策を解説
障害者雇用においても公務員は人気の職業です。安定して働きやすく高待遇で、国や地域に貢献できるイメージもありますが、実際はどうなのでしょうか。今回の記事では、公務員の障害者雇用の現状について、筆記試験および面接の傾向と対策の話題も交えて解説します。
公務員の障害者雇用の採用状況
まず、近年の公務員障害者雇用の状況を見てみましょう。
中央省庁は新規雇用数・定着率ともに良好
2018年に、中央官庁や地方自治体で障害者雇用数が水増しされていたという事実が発覚しました。健康診断で異常が出た方を、障害者手帳を持っていないにもかかわらず障害者として算入するなどの方法で、3,000人以上が水増しされていたものです。
障害者雇用において、障害者の人数は障害者手帳所持者のみをカウントするよう定められています。しかし、厚生労働省の通知に手帳所持の確認が記載されていなかったことを理由に、それぞれの機関が独自に判定していたようです。
批判を受けて、国は2019年6月1日までに3,000人以上の障害者を新規雇用しました。2019年に障害者を対象にした国家公務員試験を実施して、不足の解消を図った形です。その後、2021年12月24日に厚生労働省が出した「令和3年障害者雇用状況の集計結果」によると、以下の数値まで増加したようです。
・国(法定雇用率2.6%)は、雇用障害者数9,605.0人(9,336.0人)、実雇用率2.83%
(2.83%)
・都道府県(法定雇用率2.6%)は、雇用障害者数1万143.5人(9,699.5人)、実雇用率2.81%(2.73%)
・市町村(法定雇用率2.6%)は、雇用障害者数3万3,369.5人(3万1,424.0人)、実雇用率2.51%(2.41%)
・教育委員会(法定雇用率2.6%、都道府県などの教育委員会は2.5%)は、雇用障害者数1万6,106.5人(1万4,956.0人)、実雇用率2.21%(2.05%)
※()内は前年
4種の公的機関すべてで雇用者数の増加があること、さらに国と都道府県では法定雇用率を超えていることが読み取れます。
なお同集計結果において、民間企業(法定雇用率2.3%)は雇用障害者数・実雇用率ともに過去最高を更新しています。また、独立行政法人など(法定雇用率2.6%)でも雇用障害者数・実雇用率が前年を上回りました。
障害者雇用率の算入対象となるのは、精神障害者・身体障害者・知的障害者です。かつては、公務員の障害者雇用は遅れており、フルタイムでの採用はほぼ身体障害者に限られていました。知的障害者と精神障害者には臨時採用で延長なしの3年程度の雇用などしか設けられておらず、実質的に門戸が閉ざされていました。
しかし、2018年4月の法改正で精神障害者も雇用率の算入対象になりました。「令和元年国の機関における障害者任免状況の集計結果」によれば、直近12ヶ月間での新規雇用数は精神障害者の多さが特徴となっています。同時に、知的障害者あるいは精神障害者に分類される発達障害の方にも公務員への道が開けました。このため、2019年の障害者一斉採用のときに発達障害の方も多数採用されたようです。
なお、法定雇用率も数年ごとに改定されています。2021年3月以降の障害者法定雇用率は、公的機関の場合2.6%です。
現在の中央官庁の障害者枠では定着率も良好な数値が出ています。2018年10月23日~2020年6月1日までに採用された障害者を対象にした「国の行政機関の障害者の採用・定着状況等特別調査の集計結果(2020年6月1日現在)」によれば、定着率は83.4%でした。民間企業での職場定着率は、2017年採用の例では採用から1年後には発達障害者で71.5%・精神障害者で49.3%でした。民間企業と比べても中央官庁の定着率は高い数値を記録しています。
機関によってバラつきがある
中央官庁の多くは障害者雇用を積極的に進めていますが、府省・自治体によっては障害者雇用への熱心さや実績にバラつきが見られます。
国はほとんどの機関で法定雇用率2.5%をクリアしています。しかし、裁判所や市町村、教育委員会などの一部組織では、依然として法定の目標に届いていません。
一方で、障害者のことを理解して雇用に力を入れている機関も多く存在します。障害者雇用で公務員を目指す際は多くの情報を集めて選びましょう。
障害者雇用の公務員の仕事内容
障害者雇用で公務員になった場合、どのような仕事をすることになるのでしょうか。
2019年に一斉募集された国家公務員の障害者選考試験は、「定型的な事務をその職務とする係員を採用するための試験」でした。財務省横浜税関に配属された方の例を示します。その方は、主に「旅費・謝金などの支払業務」「出勤簿の管理」「事務用物品の管理」「文書・資料作成(ワード・エクセルを用いた入力業務・集計業務など)」などの業務に従事しています。
ただし、具体的な業務内容や実際の勤務時に希望する配慮措置については、双方で話し合ったうえで障害の状態・職場の状況に応じて決定します。また、ご自身の希望や勤務状況に応じて、人事異動によりさまざまな職務(通関業務、情報の管理・分析業務など)に関わることもあるようです。
障害者雇用で公務員になるメリット・デメリット
ここで、障害者雇用で公務員になるメリットとデメリットを見てみましょう。
メリット
公務員は離職率の低さと定着率の高さが特長として挙げられます。安定して長期間働いている方も多く見られます。公務員はコンプライアンスへの意識が高いとされているため、障害への理解や配慮を受けて働きやすい職種です。
社会的に障害者への差別的な扱いが残っているなかで、公務員になれば一定の信用を得られるという点も志望者が多い理由として考えられます。民間企業に比べて、手当などの福利厚生が充実しており、休日もしっかり取れる点も魅力でしょう。
デメリット
採用試験の難易度の高さが大きなデメリットとして挙げられます。公務員の障害者雇用枠は選考倍率が非常に高くなっています。水増し発覚の翌2019年に大量採用が行われたため、当面のあいだ大規模な採用がある可能性は高くありません。基本的には各部署で人員が不足した際に臨時採用しているようです。
筆記試験の出題範囲は幅広く、対策には時間と労力が要求されます。合格するためには厳しい競争に打ち勝たなくてはなりません。
難関をくぐり抜けて採用されたとしても、障害の特性上難しいと判断されれば仕事の範囲が単純作業に限定されるかもしれません。また、周囲から「障害者」という認識で扱われる点も覚悟しましょう。
このようなデメリットを考慮してもなお公務員を希望する場合は、人事院のサイトをこまめに確認するなど積極的な行動を取ってください。
なお、オープンと呼ばれる障害者雇用に対して、クローズと呼ばれる一般枠を目指す選択肢もあります。これは、障害者であることを明かさずに健常者と同様の枠で受験する選択です。クローズで一般枠の公務員を目指すメリットは求人件数の多さです。広い選択範囲からご自身の能力や特性とマッチする職種を選べるでしょう。しかし、表向きは健常者として扱われるため障害を理由とした配慮をしてもらえないというデメリットもあります。
なお、2018年度に合格した国家公務員の50%以上が精神障害者でした。精神障害者の大量採用は2018年の法定雇用率算入が大きな影響を与えていますが、一方で知的障害者の合格者の割合は1%未満に留まっています。知的障害者の採用率増加が今後の課題になっていくでしょう。
障害者雇用の公務員の給与
基本的に、公務員の給料は障害者雇用か否かによる影響はありません。給与額は一般に公開されている「俸給表」(国家公務員の場合)によって決まっています。障害者雇用でも、昇給・昇格や賞与のシステムは一般雇用と変わりません。
「2019年度国家公務員障害者選考試験受験案内」には以下のように記載されています。
「給与採用当初の額は148,600円(行政職俸給表(一)1級5号俸)が基本となり、採用前の経歴に応じて増額されます。例えば、高等学校卒業後30歳で採用された場合は、16.4万円~21.9万円です(行政職俸給表(一)1級の場合)。なお、行政職俸給表(一)1級の俸給月額は最高で247,600円です。」
なお、上記の額は2019年4月1日に採用された場合の例です。2022年現在はもう少し上がっているようです。
公務員は手当が充実している点も魅力でしょう。国家公務員の多くは「住居手当」「通勤手当」「期末手当・勤勉手当(ボーナス・賞与)」「超過勤務手当(残業手当)」などを受け取れます。そのほか、扶養親族のある方に支給される「扶養手当」、大都市部など民間賃金水準の高い地域で働く方に支給される「地域手当」なども存在します。
また、厚生労働省により障害者が民間企業に就職した場合の平均賃金の調査が行われました。その結果、精神障害者が127,000円、知的障害者が117,000円、身体障害者が215,000円でした。
障害者雇用の公務員採用試験
一般的に公務員になるためには、書類選考・筆記試験・面接の3段階からなる選考に通過する必要があります。障害者枠でも採用方法は変わりません。障害者枠での公務員試験には専門試験がないなど配慮はされているようですが、基本的に一定の勉強時間は必要です。
また、障害者枠でも公務員の採用は非常に厳格です。書類の不備や手続きの問題などが生じていれば、多くの場合は不採用になります。特に精神障害者手帳の有効期限に要注意です。試験当日に手帳が有効であることを求められるため、更新を忘れてはいけません。
なお、2019年の大量採用に関して人事院が公表した「平成30年度の障害者選考試験の実施状況」によると、倍率はおよそ11.6倍だったようです。
国家公務員の場合
「2019年度国家公務員障害者選考試験受験案内」には、次のようにあります。
【第1次】
1.基礎能力試験30題
・公務員として必要な基礎的な能力選考(多肢選択式)についての筆記試験(90分)
・知能分野15題(文章理解、課題処理、数的処理、資料解釈)
・知識分野15題(自然科学、人文科学、社会科学)
・作文試験1題
2.文章による表現力、課題に対する理解力などについての筆記試験(50分)
※作文試験は基礎能力試験において一定以上の成績を得ている者を対象に評定した上で、第1次選考通過者決定に反映します。
【第2次】
採用面接各府省の採用予定機関における個別選考面接など
一般の国家公務員試験では、第1次選考で「専門試験」「基礎能力試験」「作文試験」の3つを通過する必要があります。しかし、2019年の国家公務員障害者選考試験の際には高度な知識を問う「専門試験」が実施されませんでした。
障害者雇用は障害者手帳の所持が受験資格です。最終学歴によって年齢の上限も設けられています。高卒相当は20代前半、大卒相当は30代前半、社会人経験者(中途採用)は59歳までです。
なお、選考時には車椅子乗入れや点字出題などの配慮もあります。不明点は事前に確認してください。
地方公務員の場合
地方公務員の選考は、各自治体によりさまざまな形式で実施されます。基本的には難易度によって初級・中級・上級の区分けがされています。
例として東京都職員採用(3類)の場合、一次選考は筆記試験となります(教養試験40題/140分・作文1題/90分)。その後の二次選考では、個別面接が2回にわたって行われます。
志望している地方自治体で障害者採用が現在実施されているか、Webなどでチェックしておきましょう。
障害者雇用の公務員採用試験対策
公務員試験を無事に突破するためにはどうすれば良いでしょうか。ここでは、具体的な試験対策について解説します。
筆記試験
公務員試験の最初の関門は筆記試験です。内容は高校卒業程度の難易度ですが、出題範囲が広いため対策もぬかりなく行う必要があります。必要な時間は平均で800~1,000時間、1日4時間の勉強で半年程度が目安となるでしょう。独学の場合は、市販の参考書で勉強するのが一番です。テキストや過去問題集を使用して傾向をつかみ、時間内に全問回答できるよう練習しましょう。
筆記試験では五者択一形式の問題が多く、暗記が重要になってきます。暗記における勉強方法では「正文化」と呼ばれる方法が有効です。「正文化」とは、正解以外の選択肢の誤っている箇所を正しい情報に訂正して覚えていくことです。
作文・論文は、試験当日に課題が発表されてその場で文章を書くのが一般的です。時間内に指定された文字数で執筆することが重要なので、時間配分に注意してください。ご自身で時間制限を設けて練習をすると良いでしょう。いきなり書き始めることはしないで、文章の構成を組み立ててから書くことが重要です。読みやすく丁寧な文字で書き、誤字脱字がないかチェックするのを忘れないでください。
面接
面接は、民間企業と同じくマナーなどの振る舞いや、質問にどのように答えるかがポイントとなります。しかし、話しているときのご自身の癖や振る舞いは気付きにくいものです。ご自身でビデオ撮影をして確認したり、ハローワークなどの面接練習に参加したりして第三者目線でフィードバックを受けられると良いでしょう。
「志望動機」や「どう活躍したいか」など、必ず聞かれる質問への回答練習は繰り返し行ってスムーズに答えられるようにしてください。想定外の質問をされる場合もありますが、長時間黙ってしまったり慌てたりするのはマイナスです。「少しお時間をください」と言って、しっかり考えてから回答しても問題ありません。
障害者雇用の場合、ご自身の障害の詳細や必要な配慮、その対処法などについて必ずと言っていいほど聞かれます。面接担当官は障害に関する詳細な知識を持っているとは限りません。障害についてわかりやすく伝えられるよう、回答を事前に準備しておきましょう。
障害者雇用で公務員として働く際の注意点
最後に、公務員の障害者雇用で注意したい3点を見てみます。
体調管理を徹底する
国家公務員法では1年の休職で無給、休職後3年経過で免職になると規定されています。そのため、障害が重すぎると判断された場合は採用される可能性が大きく低下します。中央官庁では民間企業以上に「長期間安定して勤務できそうな障害者を採用したい」と考える傾向があります。医師が診断した結果「職務継続は難しい」との判断があった場合、免職になる場合もあります。
規則正しい生活を送るなど、体調の自己管理が重要です。また、医師・カウンセラー・支援機関・上司など、心身の状態についてきちんと相談できる相手を内外に作っておくと良いでしょう。
就職後にギャップのある可能性
かつては「公務員の仕事は楽」というイメージがありましたが、近年ではキャリア官僚を中心に激務の傾向が強まっています。そのため、公務員でも職務が原因で精神疾患を抱えて休退職するケースが増えているといわれています。障害者採用の場合はある程度の配慮をしてもらえますが、配慮だけに頼り切ってはいけません。ご自身がその職場に適応できるかどうか、事前によく調べてください。
障害への配慮についても多種多様です。健常者と同様の仕事を期待される職場もあれば、丁寧な援助が受けられる職場もあります。もし、ひとりで仕事を続けることに不安を感じたならば、就労定着支援サービスの手を借りて周囲とのコミュニケーションを図るなどの工夫も必要でしょう。
障害者雇用による就職では、一般事務補助のような固定作業が多くなります。障害の特性から、毎日決まった作業の繰り返しが適している方もいるでしょう。しかし、決められた以外の仕事にも積極的にチャレンジしたいという場合は単調に感じられるかもしれません。障害と職場での業務内容をうまくマッチングさせられるように、念入りに調べてコミュニケーションを図ってください。
俸給や昇進などの勤務評価システムも基本的に年功序列です。たくさん頑張って評価を上げていきたい方は、なかなか収入が増えず想像とのギャップを感じるかもしれません。多く稼ぎたい場合でも残業時間は抑制される傾向があります。また、公務員は副業が原則として禁止されています。
配属先への通勤に関しても注意が必要です。国家公務員には「総合職」「一般職」「専門職」の区分があります。専門職では配属機関が試験前から決まっていますが、総合職と一般職では試験の合格後に配属先が決まります。通勤に問題がないことをよく確認・検討してください。
キャリアチェンジが難しい可能性
公務員業界は独自性が強い面を持っています。そのため、公務員から民間企業へのキャリアチェンジが難しくなるかもしれません。特に有期雇用の場合は期間満了後のキャリアも考えて、どこでも通用する資格やスキルを習得しておくべきでしょう。
まとめ
今回は公務員の障害者雇用の現状、筆記試験および面接の傾向と対策についてお話ししました。公務員を目指すことは大きなチャレンジでしょう。ご自身の傾向を知って、適切な対策を立てて成功できると良いですね。